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殴られている菊池完一が叫んだ 
「かんちゃんくらせ、くらせ。こんな奴らた
いしたことない、かんちゃんなら勝てる。び
びるな、相手をよう見てパンチを出せ」伊吹
権次は自分に殴りかかる、他中学の不良学生  
をひょいひょいと交わし、まるでダンスを踊   
るかのようなステップを踏んで、相手の顔面
や腹部に拳骨を当てながら、完一に格闘の指
示を与えている。
 その日、二人は学校から帰ると、完一の祖
父母の家に遊びに行ったのだった。祖父母は
隣中学の校区の、大きな邸宅に二人だけで住
んでいて、孫の完一を殊のほか可愛がってい
た。親友の権次に対しても孫同然に対処し、
二人はこの日もケーキを食べての帰りだった。
完一の自転車に相乗りした二人に、わざと
接触しそうに対向してきた、やはり二人乗り  0
の中学生が、因縁を付けてきたのだった。    1
「銭出せや、今日のとこはそれで堪えてやる
けん」権次達は三年生で中くらいの身長で百
六十センチくらいだが、相手も体格からして三
年生らしい。二人とも長髪で、ニキビの中の目
が鋭く、いかにも悪役であり、ジーパンに派手
なジャンバーといういでたちは、完全に不良学
生である。
 坊主頭の権次がやはりニキビ面を顰めて怒
鳴った。
「寝ぼけたこと言うなよ。お前らが危ない運転
して来やがって、わしらからかつあげしようい
うんか。それなら相手になってやる、来いくら
しちゃるけん」
「おうおう、お前らわしらの縄張りに来て、舐
めたこと言うてくれるじゃんか。ちいとばかり
焼きを入れちゃろかあ」いきなりそれぞれが殴
りかかってきたのだった。