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 権次はとうとう相手を殴り倒し、運動靴で
顔面を蹴りあげ、動かなくなったのを確かめ
て、完一の相手に向かった。仲間がやられ
てしまったのを見たこの中学生は、もう完全
に逃げ腰だった。
「かんちゃんくらせ、くらせ、やられた仕返し
をしてやれ」権次の言葉に完一は、固めた
両拳をただ水車のように振り回していた。そ
れでも弱気になった相手には、この拳が次
々と当たり顔面が赤くなり始めた。
「かんちゃんもうやめてやれ」という言葉に、
完一は我に返ったように、腕を振り回すの
をやっと止めた。権次がズボンの両ポケッ
トに手を入れたまま相手の前に立ち、にや
りと笑って言った。
「これで堪えちゃるけん銭出せや」完一が
興奮した顔の中で驚きの表情をした。     1
 権次は相手のポケットに手を入れ、百円紙  1
幣を三枚掴みだし、道路に倒れている中学生 
を顎で指して言った。
「お前があいつの銭も取れ」
「あいつの家は貧乏じゃけん銭なんか持って
ない」
「ほうか、あいつは貧乏人か。わしと同じじゃ
のう、それならこれで堪えてやる。ほじゃけ
ど、次からわしらを舐めたら堪えせんぞ」
言いながら権次は右拳を相手の鳩尾(みぞ
おち)に放った。よろよろと道路に倒れるの
を見ながら「へっ口ほどにも無い奴が」と言
いながら自分の埃まみれの学生服をパンパ
ンと叩き、自転車を起し荷台に乗った。        
完一はハンカチで血を拭い、サドルに腰を
掛けながら言った。
「ごんちゃん金取るのはようない。返してや
れや」