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「かんちゃん何言うとるんぞ。ひとおつ間違
えたらわしらが金取られとったんぞ。もっと
もわしは取られる金もないけど、そんな奴か
ら金取ってどこが悪いんぞ。かんちゃん三百
円入ったけんお好み焼きでも食うか」お好み
焼きは安い店で五十円くらいだ。
「いらんわしはそんな金でお好み焼きなんか
食いたない」完一が吐き捨てるように言った。
「かんちゃんは金持ちじゃけんのう。それな
らこの銭はわしが持っとくわ」権次は大切そ
うに学生服の内ポケットにしまった。
「ごんちゃんどう考えても、金取るのはよう
ないと思わんか」完一は自転車を漕ぎながら
言った。権次の家は貧しくて自転車がないた
め、どこに行くにも完一の自転車に相乗りし
ていた。
「かんちゃん世の中なんかそんなに真剣に   2
考えることないんや。ま、気楽にやろうや」  1
完一は腹立たしそうに、がむしゃらにペダル
を漕いでいた。権次は両足をぶらぶらさせな
がら、得意の石原裕次郎の歌を大声で歌って
いた。"おいらはドラマ―やくざなドラマ―お
いらあが怒れば嵐を呼ぶぜえ"
 古い軒並みが続く路地から、痩せた茶色の 
犬が走り出てきて烈しく吠えたてた。      
             (三)
「ごんちゃん好きなものをいくらでも食べな
さいよ」三越デパートで催されている"うま
いもの会"で様々な西洋料理を前に完一の
父親が言った。会場はゆったりとしていて、
クラシック音楽が低く流れている。客層は上
流階級の観が強く、スーツやドレス姿の年配
者が多い。完一の家族は、極東商事という会
社を経営している父親と、母親、完一の三人
だけである。会社経営は順調で、裕福な暮ら