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しであり、家族はこのような食事会によく参
加しているのだが、今回は完一の希望で権次
を参加させたのだった。
 完一の父親は、シックな絹製のスーツをさ
りげなく着こなしていて、四十三歳だが年齢
より少し老けて見える容貌が、貫禄にも思え
た。
 母親はすらりとした体に、ロングドレスを
纏った上品な美人である。
「すっげえなあ、わしこんな料理見たことも
なかった。兄ちゃんや姉ちゃんにも食べさせ
てやりたい」権次は不躾に、あれこれと料理
に箸を当てながら言った。
「お土産に持って帰ってもええけど、私達は
ごんちゃんに食べてもらいたいんだから、腹
一杯食べなさいよ」完一の母親も笑いながら
言った。
「うん、ごんちゃん食べようや」分厚いステー  3
キを取りながら完一が言った。権次は嬉しそ  1
うにステーキに齧りついた。権次の家庭では 
外食をすることなどはなかった。あったとす
れば権次の記憶には両親が揃っていた頃、何
度かラーメン屋に行ったくらいであった。
 しかし、権次には完一の家庭を羨む気持ち
は全くなかった。それは完一の淡白な性格か
らくるものであり、自分の家庭は貧しいのだ
からこのようなぜいたくが出来る筈がないと、
割り切っていた。
「ごんちゃんのお父さんは何をしている人なん
ですか?」完一の父親がワインを飲みながら
柔らかな表情で聞いた。
「パチプロです。〇、五ミリの釘の歪みが分る
くらいじゃけん、生活できるくらいは稼ぎま
すが、酒飲んでは女に持っていくんで、いっつ
も貧乏ですよ」権次は笑いながらさらりと言