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った。
「女に持っていくって、お母さんの外に女の
人がいるの?」完一の母親が不思議そうな
顔をして聞いた。「エヘン、エヘン」完一が
母親を睨みながら言葉を遮るように咳をした。
しかし、権次が平然と答えた。
「飲み屋の女ですよ。お袋はわしが小学校の
時に、男作って逃げて行ってしもうた」権次
は口元に肉汁を付けていた。その顔を見て完
一が笑った。権次は意味が分らずきょとんと
していたが、完一の母親が膝に置いていた白
いクロスで拭って、見せたので権次も大笑い
しながら、伊勢海老の具足煮を食べ始めた。
「それじゃあ、お食事を作るのはお父さんな
の?」                         
「う―うん、親父は料理なんか出来ん。姉ち  
ゃんが作るんよ。姉ちゃんも料理は下手やけ   4
ど、商店街の店員しもってようしてくれる。外  1
に農器具工場に勤めとる兄ちゃんがおるけど、
仕事忙しいて帰るのはいつも遅い。兄ちゃん
は親父と違うて真面目なんすよ。給料安いけ
ど、半分は食事代に入れて後は貯金しとる。
もっとも親父が金を使い過ぎた時は、兄ちゃ
んの貯金を取り上げてしまうんで可愛そうや」
完一の母親が権次の皿に料理を入れながら言
った。
「あらまあ、それは駄目ねえ。でも子供は親
に対して育ててくれた恩というものがあるの
だから、それはお父さんへの恩返しのお小遣
と思ってあげればいいのよ。お金なら働けば
人によって大小の差はあっても必ず出来るも
のだからね」
「えっあんな親父に恩返しせなあかんの?」
「当り前ですよ、ごんちゃんにとっては世の中
でたった一人のお父さんなんだから、大事に