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への軌道を歩むと張り切っている。弥生先生
は涙を流しながらピアノを弾いていた。しかし
演奏中だから涙を拭くことが出来ず、頬から
顎に伝わり黒いスカートにぽたぽたと落ちて
いた。
 松山市の北西部の山手にある少年院の運
動場にも暖かい日差しが射していた。
「バルボン、今日は中学卒業式じゃが、わし
ら出れんかったのう」権次が作業服で建物
の壁に凭れたまま言った。
「ほんまじゃのう、情けないことよ。わしは二
ヶ月後には出所できるが、権次はまだ先が
長いのう、就職はどうなるんじゃ」
「担任の先生が内定しとった会社に出所時
に就職させてくれと頼みに行ってくれたが、
この三月に出所できるのなら考えましょう言
うたらしい。二年の刑期が決まっとる人間に   9
そんなこと言うのは体のええ断りよのう。ほ   7
じゃけど先生が出所までに、どこかわしに向
いたとこ探してやる言うてくれた」
「ほうかあの先生なら、実直そうな人じゃけん
探してくれるじゃろ。お互い就職で贅沢言えれ   
る立場じゃないけん、決まったところで頑張ろ   
うぜ」度々少年院を訪問する石田教諭を、バ
ルボンも何度か見て知っていた。
「バルボンは出所したらどうするんじゃ?」
「うん、なんか仕事探すわい。それより権次
もう卒業式も終わる頃じゃ、わしらもここで
"蛍の光"歌うて、中学校終わりにしようや」
「ほうじゃのう、ここからみんなと別れよう」
"蛍の光窓の雪文読む月日重ねつついつし
か年も過ぎの戸を開けてぞ今朝は別れ行く"
二人の低い声が流れて行った。
「ええ歌じゃのう、別れにはぴったりの歌じゃ、
わしには甘えで生きてこれた子供時代とさら