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に面会してきた。やつれてはいたがみんなに
申し訳ないと言っていた」教諭は立ちあがり、
黒板に向かって文を書いた。それは短歌だっ
た。
 世に背き 思いわぶらむ 罪の痕 恩師
        我が友 幸せであれ
「伊吹が何か紙に書いて先生に渡したんじ
ゃ。何じゃろうかと思うたらこの短歌じゃった。
短歌好きの伊吹らしい句じゃ。先生や皆に詫
びる気持ちが、たっぷり出ている素晴らしい
句じゃ。皆この句を、伊吹の気持ちを一生覚
えていてやってくれ。
 それからなあ、先生は自分の教育方針とい
うものに今まで自信を持っていたが、今回の
事件は自分の失敗じゃったと反省している。
いつだったか伊吹に"お父さんは訳もなく暴
力を振るうたりするのか"と聞いたら"訳もな  6
く暴力を振るうことはない"と言った。だけど  7
権次の顔から、それは嘘だと分っていた。
分っていながら、"そんなに殴られる原因は
伊吹にあったのだから"と父親からひどく折
檻されたことを問題なしに終わらせてしまっ
た。あの時、伊吹の父親を庇う気持ちを無
視してでも、直接父親に注意をしに行くか、
児童相談所に駆け込むかせんといかんか
った。あの時の父親を怨む気持ちが、今回
の事件の伏線になっているだけに、結果的
には先生が何もしなかったことがいかんか
った。教師失格じゃ。
 だから自分にペナルティを課さんといかん。
定年まで四年あるけど、皆の卒業と一緒に退
職することにした。今後、伊吹の面倒を出来
るだけ見てやるつもりじゃ」教諭がしんみり
喋った。
「先生、先生に責任なんかない、私達も卒業