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を先生が作って何百枚かコピーをしてみんな
に渡すから、みんなは出来るだけ多くの人に
読んでもらって署名してもらうんじゃ」
「そうじゃそうじゃ嘆願書を集めよう」それぞ
れが叫んでいた。その日は新聞、テレビの報
道記者が学校に押し寄せて来た。さすがに校
内に入ることは遠慮していたが、退校時の生
徒、教師にインタビューしている記者もいた。
しかし、皆一様に伊吹君はそんな人ではあり
ませんとだけ答えていた。
 それから三日後には、伊吹の机の上に三百
枚ほどの嘆願書が置かれていた。一枚に十人
の署名が出来るようになっているから、三千
人程である。石田教諭がそれを持って松山
地方検察庁に行った。
 嘆願書の提出人は石田精二外五十三人の
連名である。これは全員の希望であるが、同  5
級生がそれほどまでに伊吹の減刑を望んで   7
いることは、ひいては伊吹という人間の良さ
であり、本来ならこのような事件を犯す筈が
ない人間だと言うことを強くアピールしたい
という考えであった。 
 嘆願書の文面は、まず事件の報告であり、
途中から伊吹権次はそのような人間ではな
い、正義感が災いして偶発的に起こった事故
であるという内容になり、最後は本人が重々
反省しているということを訴えていた。     
 そして一ヶ月後に執行猶予付きの二年とい  
う判決が出た。
 クラスでは「二年は長い」とか「いや、人を
殺したということには間違いないのだから二
年なら短い、それは我々の嘆願書が効いて
いるんじゃとか様々な声があった。
「みんなようやってくれた。おかげで二年間
ですんだ。これは仕方ないと思う。昨日伊吹