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海い 松山はまつやまあは 夢のまあちい”
教室がしんとなる巧さだった。
「随分と大人っぽい唄ね、恋しいあの人って
誰なの…曲は良いし、歌も良かったですよ」
弥生先生が笑いながら言うと、完一は首筋ま
で赤くなっていた。権次は完一から目を逸ら
し、悠然とそびえ立つ天守閣をぼんやりと眺
めていた。
             (七)
 全員が登校したが権次の席が空席だった。
「かんちゃん、ごんちゃんは?」門田が完一
に聞いた。
「わし帰りは一緒じゃけど、朝は別々に登校
するんで知らん」完一は答えながら、心の中
で何故か不吉な予感を感じた。授業は不真面
目だが、権次が学校を休んだことは未だ嘗て
なかった。その時石田教諭が教室に入って来   1
た。何処か力のない、魂が抜けたような歩き   7
方だった。完一は何かおかしいと感じた。     
「先生どうしたんですか?ごんちゃんに何か
あったんですか?」完一が朝の挨拶である
「起立」「令」も言わないで聞いた。他の生徒
は立ちかけようとして、座ったり中腰のまま
でいる者もいた。
「伊吹はもう卒業まで学校にこれないじゃろ
う」教諭の顔は血の気が抜けて青白くなって
いた。
「先生どうしたいうんですか?」完一が息急
き切って尋ねた。教諭は肩で大きく息をしな
がら、深呼吸し溜息をついた。そして再び悲
しみに沈んだ顔になった。
「今日はなあ、報道陣が大分来るじゃろうし、
明日の新聞には載るじゃろうけん、みんなに 
は言うておく。みんな動揺するんじゃないぞ、
落ち着いて聞いてくれ。伊吹がなあ、伊吹が