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「くらすぞお前ら」眉に皺をよせて権次が辺
りを睨みつけた。
「伊吹くん」権次は慌てて、顔を笑顔に戻し
ながら弥生先生を見た。
「それでは発表していただきます。ピアノの
横に立って下さい」
「はいー」語尾はもう声にならず、しょぼくれ
顔で前に出て行った。
「ええぞ裕次郎」「石原裕次郎」「裕ちゃん
頑張れ」様々な声援に権次は気を取り戻した
ばかりか、有頂天になって教室の端から端ま
で見渡しながら、両手を頭の上で握って振っ
ていた。青痣だらけの目尻を下げ、大きな口
を開けて笑う権次の顔は、幸せそのものだっ
た。弥生先生が権次の曲を一度弾いた。
「はい」
"おいらはちゅうがくせいやくざなちゅうがく    0
せい"得意気に低音で歌う権次はスター気取     7
りだったが曲と歌は全く合ってなかった。
 曲が終わると石原裕次郎ばりに台詞まで
喋り始めた。
「この野郎!一発やりやがったな。それフッ
クだ、ボディだ、チンだええいめんどうだこ  
のあたりでノックアウトだあい」         
「なんですか伊吹君それは。曲と歌が全然
合ってなかったし、中学生が歌う歌ですか、
下品です」途端に権次の首ががくんと折れ
たように、俯いてしまった。楽譜を弥生先生
から受け取り、すごすごと席に戻る姿は歌
う前と別人だった。
「はい、次に出来た人だれでした?」完一が
手を上げた。
"恋しいあの人に会いたくてー城山にい登っ
たけれどお秋風が寂しくう吹いているだけえ
アーアーア白い天守閣夕日に輝く瀬戸の