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しこういうところでクソ度胸を発揮してしま
うのが権次であった。五線紙に立て線を引く
と、歌詞全ての上に二分音符、四分音符、八
分音符を山のように谷のように配したのであ
る。だから作曲には五分もかからなかった。
権次が周りを見ていると全員が楽譜を書いて
いる。完一は指揮者のように、人差し指を上
下に振りながら口の中で何かを歌っている。
「伊吹君、もうできたの?」弥生先生が権次
を見て言った。
「は、はい意外と簡単でした」
「伊吹君素晴らしい。音楽の才能があったん
ですねえ」
「いえそれほどでもないんですけど石原裕次
郎みたいな歌手に…」
「伊吹君歌手になりたいの?」
「八ツハッハハどこが裕次郎なん」村上紘一   9
が大笑いした。                  6
「むらかみい、くらされたいんかお前」途端
に教室が笑いの渦になった。
「はいはい丁度二十分ですよ。皆さん出来ま
したか。それでは出来た順に発表していただ
きましょう。先生が曲を弾きますからピアノ
の前に置いて下さいね。
「先生発表するんですかみんなの前で」権次
が らしくない小さな声で不安そうに言った。
「そうですよ、最初に言ったでしょう」
「それを聞いてなかったです」            
「発表が嫌なの?貴方歌手になりたいくらい   
歌が上手いんでしょう」
「ほじゃけどねえ、急いで作ったけん、イメー
ジのメロディと歌詞が会(お)うてないんよ」
再び教室中が大笑いになった。「ごんちゃん
にしては早すぎると思うたんよ」などと言う
声も聞こえた。