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権次は寒い音楽教室の中で冷や汗が流れおち
るのを感じた。
「それでは皆さんのその詞に曲を付けてもら   
って、その曲を私がピアノで弾きますから歌   
って下さい。作曲時間は二十分です。
 さあ皆さんの詞の中に浸って下さい。楽し
い詞であれば楽しく、悲しい詞であれば悲し
い感情になるのです。すると頭の中にメロデ
ィが湧いてきます。それをハミングして下さい。
そのメロディを書きとめればいいのですよ。
 今日は先日教えましたように、基本的なハ
長調で四分の四拍子、八小節でまとめてみま
しょうね。四分の四拍子は四分音符が一小節
に四個、二分音符なら二個入るのですよ。
 曲はCのドミソ、Fのファラド、Gのソシレを使
いましょう。もちろん和音に含まれない音を入
れてもいいのですよ。ししゅう形とかけいか形   8
ですね。で、和音の流れは最初と最後はCの    6
ドミソにすれば良いですよ」他の生徒が既に
ラララアアラなどとハミングしている中で、権
次は大慌てだった。テーマも決めず行きあた
りばったりで、歌詞を作ろうとするものだから
頭の中に何も浮かばないのである。しかしパ
ニックになった頭の中の奥の方で、突然閃い
たものがあった。裕次郎の嵐を呼ぶ男だった。
これを少し変えれば歌詞に使えると分ったの
だ。ノートにすらすらと書いた"おいらはちゅ
うがくせい やくざなちゅうがくせい おいら
あがおこれば あらしをよぶぜ べんきょうざ
わりにい せんこうたたきゃ あかてんのうさ
もふっとぶぜえ"できた。権次の顔がパッと明
るくなった。だが、次の作曲が再び難関であ
った。弥生先生の説明が、全く理解出来てな
かったのだから仕方なかった。裕次郎の歌が
歌えても、楽譜などは全く知らなかった。しか