newpage64
実際には権次が物心が付く頃から、訳もなく
父親に暴力を振るわれている。パチンコ、競輪
で負けて機嫌が悪い時、悪酔いした時など腹
いせに権次を殴るのだった。
「そうかそれで良かった。お父さんは理念を持
ったスパルタだから、お父さんに殴られてそん
な顔になっても、甘んじて受け入れるしかない。
今回そんなに殴られる原因は伊吹にあったの   
だから、お父さんを怨んではいかんぞ」       
「先生、どんな立派な理念を持っていても、私
はやっぱり暴力での指導なんか間違っている
と思います」住田幸子が大人びた表情で言っ
た。住田は暴力を振るう父親から逃れて、母
親と弟の三人でひっそりと暮らしている生徒
だが、明るい性格でブラスバンド部の副リー
ダーをしている。 
 教諭も権次の父親のこれほどまでの折檻は、   3
もはやスパルタ教育を通り過ぎて単なる制裁    6
だと思っていた。いくらスパルタであっても、そ
こには思いやり、限度というものがなければな
らないが、父親にはそれが欠けていると思って
いた。そして権次が父親を庇って嘘を言ったこ
とも見透かしていた。その状況の中で自分が
父親を批判することは教育者としてあるまじき
ことだと考えながらも、もう一度このようなこと
があれば児童相談書に届けようと考えていた。
「住田、お前が言うことはおそらく正しいと思
う。しかし拳骨が時と場合によっては教育の一
つの方法になることも分ってくれよ、このこと
については又みんなで話しあおうや。それで
は朝のホームルームは終わり」一時限目は松岡
糸子教諭の英語だった。
「それでは不定詞を勉強しましょう。不定詞と
いうのは普通 To + 動詞の形をとり、名詞
として何々すること、形容詞として何々すべき、