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「ほうじゃろか、わし又なんか胸の中に希望
が湧いてきたがや」話しているうちに権次の
家の近くに来ていた。道路から少し低くなっ
た所に、五軒の古びた長屋が二棟あり、権
次はここまで来るとなぜか勢いよく走って、
消えてしまうのが癖だった。
「ごんちゃんもう暴力沙汰は止めて…」完一
が話しかけたが、やはり権次は勢いよく走っ
ていて長屋の奥に消えかけていた。
            (六)
 翌日、権次は腫れた顔に目の周りを青黒く
して登校してきた。会う者全てが「ごんちゃん
その顔はどうした?」「伊吹どうした?」と聞
くほど強烈に変形していた。石田教諭はじ
め三組の生徒達は、すぐに状況が把握でき
た。朝のホームルームで、教諭が権次を見  
ながら言った。                   
「伊吹やっぱり先生が行ったほうが良かった  1
なあ。済まん許してくれ、先生の職務怠慢   6
じゃった。で、話し合いは終わったのか?今
日も続くのか?」
「話し合いじゃのいうもんじゃないわい。昨夜
寝とったら、顔の上で酒臭い息がして、いき
なり拳骨の嵐じゃもん。わし何が起こったか
分らんかった。分ってからも親には逆らえん
けん、無抵抗でおったらこうなんですよ。兄
貴が止めてくれたから良かったものの、わし
親父に殺されるか思うた。先生が居ってくれ
ても同じよ」教諭は暫く顔を伏せていたが、
ふっ切るように権次の顔を見て言った。
「伊吹、無抵抗じゃったいうのは偉いぞ。目上
の人、まして親に逆らうじゃのいうことは間
違うとるけんのう。親子の話し合いが出来れ
ば良かったんじゃが、元々非はお前にあるん
だから殴られても仕方ない。人はそれぞれ