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それをどうやって解決していくか考えるんじ
ゃ。そういう意味では何の不満もなく過ごし
とる者より、伊吹は生き甲斐というものがあ
るんじゃ。不平不満が解決できて、自分が理
想と考える生活が出来始めた時には、外の
者より幸せを感じる筈じゃ、その幸せを目指
して頑張れよ。それでは今日はこれまで」全
員が立ち上がり礼をして、長い肩掛けのつい
た白い鞄を掛けた。教室棟の玄関を出ると、
沢山の生徒が右、左に分れて蟻の行列のよう
に歩き始めた。権次と完一は東門から帰るた
め左に曲がった。その時誰かが後ろから権次
の肩を叩いた。二人が振り向くと田中だった。
「責任とらせて悪かったのう、この穴埋めは
いつかさせてもらうけんの」
「ええわい」権次は振り向きもしないで、運動
場を足早に歩いた。完一が慌てて追った。    0
 権次はいつになく無口だった。上一万の電   6
停まで戻ると権次がやっと口を開いた。
「かんちゃんわし弥生先生に嫌われてしもう
たが」                         
「どうして分るんぞ」                  
「職員室できつい顔で見損なった言われたん
じゃ。もう弥生先生はわしなんか相手にもして
くれんじゃろう、結婚なんかもう絶望じゃわい。
弥生先生はかんちゃんに譲るが」権次は子供
のようにべそをかいていた。
「ごんちゃんわしは弥生先生のことは諦めと
る。わし大学まではいこうと思うとるけん、
就職出来るのは早くても七年後じゃろ、弥生
先生二十九になるもん、待ってくれんじゃろ
なあ。もう先生のことは心の中できっぱりと
けじめを付けとるんじゃ。ごんちゃんなら生
活力があるし、真面目にしとったらいつかは
ごんちゃんの良さを、分ってくれると思う」