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権次は窓から城山を眺めながら、珍しく落ち
込んだ調子で言った。
「ごんちゃん好みの浪花節よのう」吉野がポン
ポンと机を叩いて、歌舞伎の見えを切るポー
ズで、大きな目を見開いて言った。酒屋の息
子であらゆることに造詣の深い陽気な生徒で
ある。
「ごんちゃんバルボンが少年院出てきたら、   
友達として付き合おうと思おうとるんじゃろ?   
わしはごんちゃんの将来にようないと思うけ
ど」完一が周りを同調さすようにぐるりと見
回した。
「そうよそうよ、そのバルボンってヤクザとか
になってしまいそうなタイプじゃない。これっ
きり知らん顔してたほうがええよ」副委員長
の阿部秀子が怖そうな顔をして言った。教室
ががやがやと騒々しくなった。ある者は付き  7
合って得になる奴ではない。ある者は男とし  5
て一生付き合う価値のある奴だなどと言って
いる。
「みんな色々考えてくれてサンキュウ。結局
はわしが決めることじゃけど、わし自身はバ
ルボンという奴は、義侠心のある男じゃと思う。
そうじゃないと前を三つも持っとって、わざわ
ざ察に捕まることはないじゃろ。わしは義に
弱い人間じゃけんのう、あいつとは付き合
(お)うてみたい。みんなの意見は参考にし
て、駄目じゃと思うたらきっぱりと付き合い
を止めることにしようわい。いつ年少から出
てくるんじゃろか?卒業式までには出れん
じゃろのう」権次が腕組みをして言った。
「ほじゃけどのうごんちゃん、一つだけ言う
とくけど、暴力を常習にする奴はいかんぞ。
世の中の出来事は、難しい数学の問題と同
じでよおく考えたら解けるように、よく話し