newpage56
おりじゃ。世が世であれば伊吹は天下を取っ
とった。それが法律のしがらみの中で生きん
といかん現代に生れたばっかりに、その個性
が生かされないばかりか、世にそぐわんのじ
ゃ。それは曽根にも言えることじゃ」職員室の
あちこちから笑いが起こった。
「そうか、伊吹と曽根は生れてくる時代を間
違えたんじゃな。しかし、この時代に生れた
限りはこの世の規則、規律を覚えてもらうぞ」
雲龍が今迄の厳しい顔を崩して、にこにこ笑い
ながら言った。すると泉校長がいつもの温厚
な表情で言った。
「二人とも今回の事件は許すわけにはいきま
せんが、君達の将来をも考えて校長の私に預
かりということで終わらせてもらおうか。預  
かりとする限りは君達が社会人になってもど
こまでも、私の生きている限りじっと監視し   5
ていますよ。そして君達に些細な間違いが    5
あっても、詮索追求し指導してゆきます。
それが今後の私の義務でもあります。今日
は手荒い指導をしたかもしれないが、君たち
のことを思う愛の鞭だから、ようく噛み締め
て更生して欲しい。そしてまともな中学生で
卒業して、社会に役立つ人間になって下さい
よ。校長からのお願いです」
 力石が「お騒がせして申し訳ありませんで
した」とだけ言った。
 職員室を出ると力石と権次は何も言葉を交
わさないで、それぞれの教室に入った。
 教室は既に室内清掃が終わって、担任教諭
が来るのを待っている状況だった。
「ごんちゃんどうしたんぞ?なんでT 中の奴
らと喧嘩なんかしたんぞ」完一が権次の肩を
掴んで言った。権次が自分の席に戻ると、全
員が権次の席を取り囲むように集まった。