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に入らんという理由だけで暴力を振るうなん
て、まともな中学生がすることじゃないでしょ
う」弥生先生が遠山の眉に皺を寄せて言った。
「女には男の世界なんかわかりゃしませんよ」
権次がまずいことを言ったと思った時、頬に軽
い痛みを感じた。すぐには何が起こったのか
分らなかった。石田教諭が不器用に拳骨を振
りかざしていた。権次は思わず一歩下がって
しまった。それに応じて教諭は拳骨を下ろした。
「伊吹、お前、何を考えとるんじゃ。男の世界と
はなんぞ。世の中には男の世界も女の世界も
ありゃあせん、同じじゃ。お前が言う男の世界
とはヤクザな世界じゃないのか?そんなもの
は屑の世界じゃ。もっと地に足のついた考え
をせんと取り返しのつかん人生を歩んでしま
うぞ」教諭がこれほどむきになって怒るのは
初めてだった。権次は叱られながら感動して   3
いた。どちらかといえば女性的だと考えてい   5
た教諭が振るえながらも権次を殴ったし、怒
りを露わにして説教する姿に男らしさを発見
したのが清々しい嬉しさであった。それはや
はり教諭が指摘した、美化されたヤクザな世
界への憧れが心の中で蠢いている証しである
ことが権次には分らなかった。
 力石も担任の藤木教諭から説教されていた。 
「伊吹は根は優しい人間なんじゃ、先生が関   
心しとるのは佐々木が他の生徒から苛められ
とった時、弱い人間を苛めたらいかん、同じ
クラスの者は仲良くやろうや言うて、苛めを
止めさせてくれたじゃろが、あの優しさはど
こに行ったんじゃ」石田教諭が泣くような声
で言った。
「それじゃって問題解決の根底にはわしの暴
力があるんじゃ、わしが暴れもんで恐ろしい
けん誰も反対せずに聞いてくれたんじゃ。こ