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だ。
 雲龍の平手が連続で二人の右頬に当たった。 
更に戻りの平手が左頬に当たった。そこで終   
わったのかと思うと更に左頬に衝撃を受けた。
権次は痛みの中で、ロングが言った"泣いて馬
謖を切る"を考えていた。この二人は本当にそ
んな崇高な精神で殴っているのだろうか。本当
に泣いているのだろうか。権次は二人の顔を見
た。雲龍の平手が権次の頬に当たる瞬間だっ
た。少し開いた唇から噛み締めた歯が見えた。
しかし、その上にある見開いた目が何故か物
悲しそうだった。権次はもう一度雲龍の目を見
るのが恐ろしくて俯いてしまった。
 石田教諭が近づいて権次の肩に手を置いて言
った。
「なんか理由(わけ)があったんじゃろ?伊吹が
理由もなく暴力を振るうとは思わん。何があっ   2
たんじゃ?誰かを助けるために喧嘩したのか?」  5
「理由なんかないわい。あいつらが気に入らん
かっただけじゃ」権次がふて腐れたような顔で
言った。
「伊吹、お前誰かを庇(かぼ)おとらせんか?
悪いようにはせんけん、本当のこと言うてくれ、
校長が言われたように暴力を振るうて解決しよ
うとするお前は悪い。ほじゃけど事と次第では
先生らも許してくれる。どうなんじゃ、先生に
本当のことを言うてくれ」石田教諭が権次に
縋るようにして言った。権次はこの教諭にだ
けは事実を告白して心の底から謝りたかった。
しかし、自分がいかに不利になろうが、友は
庇わなければならない、又その約束を守るの
が男だと考えていた。だから口から出た言葉
は「だあれも庇おとらせん、あいつらが気に入
らんかっただけじゃ」だった。
「伊吹君、先生は伊吹君を見損なってた。気