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 校長室から職員室に通じるドアを開けて、
泉校長が入ってきた。細身の体をダークグレ
ーのスーツで包み、ゴマ塩頭で上品な顔が厳
しくなっていた。
「君たちは何度言っても反省出来ないんだね。
理由はどうであれ、暴力を振るうことは絶対  
に許さないと教えてきたでしょうが」権次が   
校長を睨んで言った。
「ちょっと待って下さい。わしら泥棒したり弱
い者苛めしたり、法に触れることしたんじゃ
ないんですよ。喧嘩好きなものだけが集ま
って、喧嘩してどこが悪いんですか。言って
みりゃスポーツしたのと同じですよ」
「何を言うとるんですか。法に触れる触れな
いの問題じゃないですよ、倫理観の問題です。
喧嘩に似たスポーツはあるかもしれない、しか
し、喧嘩とスポーツは似て非なるものです。君  0
達喧嘩をするにあたって殴るのはここからここ  5
までとか、相手が弱ったら喧嘩を中止するとか
ルールを決めてるの?ルールの無いところで
争うのは野蛮な行為でしかないですよ。何か
の問題解決のために喧嘩をしたのであっても、
成長期の君たちがその方策だけに頼っている
と、大人になって家庭で、社会で様々な問題
を解決しなければならなくても、暴力で以外
何一つ解決できないですよ。そんな大人にな
らないためにも、今から人間らしい慈愛に満
ちた考え方や行動が出来る、寛容の精神を
育む努力をしなければだめです」泉校長が
二人を見ながらゆっくりと喋った。
「伊吹、先生はお前にあれほど注意してきた
のにまだ分らんのか」ロングが長身から拳骨
を権次の頭に落とした。権次の目から獅子座
流星群程の星が飛び、足元でゴーンと音がし
た。続いて力石の足元からも石手寺の鐘のよ