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そしてどんぐり眼を更に大きくしたが、振り
向きもせず車に乗り勢いよくドアを閉めた。
車は川に沿って、護国神社方面に向かって
ゆっくりと発進した。親分は座席の中央に座
ると、前の座席を大きな手で掴み、ルームミ
ラーとバックミラーに焦点を合わせるように
体を動かせ睨みつけていた。そこには砂塵
に包まれたまま、唖然とした表情で立ち尽く
す菊池完一がいた。
「親分あの人、ごんちゃんと呼びはったけど
知り合いでっしゃろ?」若者がハンドルを右
に切りながら言った。親分は葉巻を車の灰
皿に押し付け、自分に言い聞かせるように
言った。
「餓鬼の頃の大の親友じゃ……。たまげたわ、
かんちゃんに会えるとは。おまけにかんちゃ
んが弥生先生と結婚したとはのう。どういう  5
経緯をたどったのか知らんが、かんちゃんや
るやんか。わしなんか元々弥生先生と結婚で
きる資格なんかなかったんやから、謝ること
はないんや。ほれで弥生先生が亡くなるとは
のう、信じられんわ、美人薄命というやつや」
親分の目は潤んでいた。
 菊池完一は土手の向うに消えてゆく車を見
送り、大きく二度頷いた。
「ごんちゃん元気でな」              
「親分、親友やのにどうして話もせんで別れ
たんでっか?」
「日蔭の道を歩くヤクザがどの面さげて友
達に会えるんじゃ……
 わしが堅気やったら、この松山には会いた
い奴は一杯おるわ。まず兄弟やのう。わしが
少年院出て大阪に行った二十四年前から、兄
と姉に一度も会(お)うてないんや。松山のど
こかで元気に暮らしとるやろけど、もう一生