newpage49
そして両手を上げながらパトカーに向かった。
             (五)
 東署では人数が多いため会議室のような部
屋で取り調べを始めた。パトカーの警察官一
名と私服の刑事二名が六人の前に座った。
「どういう状況で喧嘩になったんじゃ」年配の
刑事が聞いた。
「僕と彼は同級生で仲良しなんですが、授業
さぼって護国神社の万葉の庭を散歩してまし  
た。そしたらやっぱり授業さぼっとるようなこ  
の四人と出くわしたんですよ。僕ら最近受験
勉強で体が鈍っとるもんですから、ちょっとト
レーニング代わりに、喧嘩ごっこしてみるかと
いうことになってふざけてたんですよ」権次が
神妙な顔で、使ったこともない丁寧な言葉で
言った。若い刑事がいきなり机を叩いた。
「いい加減なことを言うな。トレーニングでそ  8
んな怪我をするほどやるのか?こいつの頬    4
の傷はナイフ傷じゃが、どっちが使(つこ)お
たんじゃ?」言いながら伊吹と力石を交互に
睨みつけた。
「申し訳ありません、僕がこれで軽く撫でま
した」権次はポケットからナイフを出して机
の上に置いた。年配の刑事が部屋の隅の机
の引き出しを開けて、白い布を出した。そし
て神妙な手つきでナイフを包んだ。
「恐ろしい奴らじゃのう、お前らは。平然と暴
力は振るうし、嘘は言う。数が合わんのじゃ
が。通りすがりの女の人の電話では、女を
含めて十人余りが乱闘しとると言うとった」
「おんな?君達とこ女に見えるのおるか?」
T 中生をじろっと見て権次がバルボンに聞
いた。
「おおいおい君ら本気で僕らと喧嘩ごっこし
てたのか、僕らは男らしい奴ばっかりじゃ。