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「分らん奴らじゃのう、わしは死ぬることは
覚悟しとる言うとろが、それよりもこの女が
死んだら助けに来た意味がないじゃろが」
「うちもこんな世の中に未練はないわい。
さっさと殺してや」
「よっしゃ、お京よお言うた」曽根が不敵な面
構えで、口を歪めて言いながら、腕を伸ばし
たり縮めたりしだした。伸ばした時にはバル
ボンの顔を掠めるほどであった。チェーンが
離れた瞬間飛び込もうとするが、その時には
曽根の近くで回転しているため飛び込めない。
曽根のチェーン扱いの技術はかなりのもので
ある。
「バルボン年貢の納め時じゃ、それっ」その時
パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 全員が少し顔をあげて音に聞き入った。    
ウヲンウヲンと鳴るサイレンが段々近づいて   6
くる。その時権次がバルボンに向かって走り、  4
顔面に一撃を与え、岩本の手を掴み本殿に   
向かって逃げた。それを合図のように、全員  
が咄嗟にそれぞれの方向に逃げた。
 本殿の床は高く、床下といっても七十センチ
ほどもある。蜘蛛の巣だらけの中を逃げて、
二人は本殿中央辺りにいた。サイレンの音が
池の向うで止まった時、何人かが床下に入っ
てきた。田中、曽根それにバルボンとT中の一
人だった。更にT中の二人が山に逃げ込むの
が見えた。それからザッザッザと足音がして
四人の警官が走って来た。植え込みの辺りで
ダウンしていたT中の三人と、力石が緩慢な
動きで逃げようとしたが、警官が追っかけて
簡単に捕まってしまった。権次が囁いた。
「バルボン困ったことになったぞ。奴ら四人だ
けの喧嘩では不自然じゃけん、察は共謀者を
探すぞ。奴らが白状したら全員がぱくられる。