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学生が不用意に近寄り、頬を斜めに切られ首
まで朱に染めていた。これには獰猛な学生も
近寄りがたく苦戦していた。
 十分もするとT 中の学生の一人が広場の
草の上で、もう一人が神社が育てている万葉
植物の上に倒れていた。M 中では力石が夢
遊病者のようにふらふらしながら、誰彼にとな
くスピードのなくなった拳骨を振り回している。
 その時だった。岩本が悲鳴を上げて右手の
カミソリを落とした。右手からだらだらと血が
流れていた。そしてバルボンの右手で何かが
キラリと光った。冬の弱い太陽がジャックナイ
フの刃を照らしていた。
「お前ら手加減してやったら調子に乗っとるよ
うじゃけど、もう決着を付けないくまい。この
女殺したる」バルボンが岩本を捕まえ、その
首にナイフを当てた。広場内の空気が一瞬   5
澱んだ。しかし、それを打ち破ったのは曽根  4
だった。
「バルボンお前汚いぞ」
「喧嘩に奇麗とか汚いとかあるんか?汚いの
が喧嘩じゃろが」
「ほうかそういう風に割り切っとる奴にはこれ
が使い易なったが」曽根が汚れきった学生服
のボタンをはずすと、ズボンのベルトの上に自
転車のチェーンが巻かれていた。曽根は黒ず
んだ包帯を巻いた部分を、右手でしっかりと握
りしめ振り回し始めた。最初はビューンビューン    
と音を立てていたチェーンが、徐々にビュンビュ
ンという音に変わり、バルボンに近づいた。
 権次が怒鳴った。
「バルボンお京の手を離せ、曽根のチェーン
がお前の顔面潰してしまうぞ」岩本の首に当
てていたジャックナイフが振るえた。曽根は
振り回しながら間合いを取っていた。