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煙草を取り出し、マッチで火を点けながら言
った。田中は普段から煙草を吸っていて、こ
ういう場面では実に様になっていた。
「わしらいつでも死ぬるつもりでおるんじゃ、
その百人とはよ喧嘩さしてくれんか」バルボ
ンは完全にM 中の手を呼んでいた。
「仕方ない、おおいみんな出て来い」権次が
山に向かって叫んだ。
「ウヲーウヲー」力石と曽根が大声で叫び
ながら山を下りてきた。
「なんじゃこら、これが百人か?えーおい。
M 中はぼんくらばっかりじゃと聞いとったが
お前ら数もかずえれんのか?」
「じゃかしー、第二段三段が控え取るんじゃ
があ、やるかこらあ」四人が七人に殴りかか
っていった。中学を卒業するとボクサーにな
り、世界チャンピオンを夢見ている田中は市   4
内のボクシングジムに通っているだけに、け   4
た外れの強さである。煙草を銜えたまま右パ
ンチを放つと即座に隣の学生に強烈な左パン
チを当てるほどの巧さである。権次も負けて
はいなかった。前の相手を殴るといきなり体
を回転させながら、右足を後ろの学生の腹に
蹴りこんだ。曽根は何発かのパンチを受けな
がらも、素早く動き相手にダメージを与えて
いる。力石は運が悪かった。いきなりバルボ
ンに殴りかかったものだから、殴り返され、
数十発のパンチ、キックを浴びてしまい、顔  
は腫れあがり、細面だったはずの顔が丸顔  
になっている。しかし力石は根性男だから、
よろける体で両足をしっかりと開いて、低い
所からパンチを返している。さすがにバルボ
ンも辟易とした顔で力石を殴っている。岩本
は女だてらにカミソリを人差し指と中指に挟
んで振り回している。赤いジャンバーを着た