newpage44
居前から右に曲がり伊台街道に入った。そし
て千葉農園入口から左に折れ、樹木の中に
消えて行った。権次と田中は神社の石橋を
渡ると、辺りを窺い、腰を屈めるようにして境
内を左に歩いた。社務所を過ぎると、弥生先
生に連れられて写生によく来る万葉の池があ
る。季節には蓮の花が咲き誇るさして大きくな
い池である。
 権次は池のほとりの、ツツジの植え込みに射
す朝日の中で、何かが動いたのを見逃さなか
った。
「おーいこらあバルボン出てこい」権次が怒鳴
った。いくつもの植え込みからすっくすっくと人
が立ち上がった。四人は学生服だが、二人は
紺色のジーンズにジャンバー姿で長髪である。
中央の長い学ランを着た色黒の大男が岩本の
左腕を背中に回して掴みながら言った。       3
「なんじゃ、わしら七人にたった二人で来たんか、 4
命がおしないんかお前ら?」
「はっはっはっは T 中の極悪七人衆相手にわ
しら二人で勝てるわけないじゃろが。ここはわし
らの縄張りだけに、百人程で寄せてきたが、怪
我せんうちにお京を返してくれんか」田中がど
すを利かした声でゆっくり喋った。十メートル
程に近づくと岩本の顔は血だらけだった。
「そうはいかんのじゃが。こいつはなあ、うちの
スケ番中川の頬を切ったんじゃ。エンコ飛ばし
たくらいでは済まんけんのう。簀巻きにしてこ
の池に放り込んじゃる」バルボンの啖呵に、外
の六人が同調するように囃したてた。
「ほうか、お京がどうなろうとかまんが、M 中
相手に七人ではお前らも死んでしまうぞ。今
のうちじゃ、手を打とう。M 中の番のわしらが
出張ってきたんじゃけん、わしらの顔も立て
てお京を返しちゃれや」田中がポケットから