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ず殴ってしまいたい衝動にかられた。
「私は伊吹君を素直な良い子だと思ってるの
だから、それでいいですよ。ね、伊吹君」
 権次が嬉しそうに鼻歌を歌いながら教室の
前まで戻ると、二年生の政田が待っていた。
権次に対しては言葉は丁寧だが、態度がど
こか横柄な番長予備軍である。
「先輩、田中さんからの連絡ですが即、屋上
で番会議だそうですよ」どこの中学にも不良
番長か、らしき生徒がいて良きにつけ悪しき
につけ生徒を引っ張ってゆくものだがM中の
不良たちは、お互いを立てる気持ちが強く、  
番長を選ばずに番長と目される貫禄のある
者(現在四人)が集まって、合議制で問題を
解決し、この会を不良たちは番会議と呼んで
いる。
「なんじゃ今頃」
「はあ何でも昨日京子さんがT中の女番長と   1
渡りおうて、カミソリで傷つけた仕返しに、さ  4
っきバルボンらがここに来て拉致していった
らしいっすよ」
「なんじゃとう」権次は歯をギリギリいわせな
がら顔を顰めた。京子とは岩本京子という名
で、権次の家の近所に住む三年五組の女生
徒である。あばずれであり、常にカミソリを持
ち歩いていて、カミソリお京とも呼ばれている。
バルボンは父親が黒人であるため、色が黒く
中学生とは思えない巨体で、M 中の東隣の
T 中学校の番長である。素行も極端に荒いた
め、市内の不良達からも一目置かれている。
権次が階段を駆け上がると、既に厳しい顔つ
きの三人が話していた。一組の田中、四組の
曽根、六組の力石である。
「権次遅いぞ」田中が言った。
「それでどうするぞ?岩本を助けなわしらの