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拳骨を頭に受ければ足元で寺の鐘のような低
く鈍い音がして、どんなつわものでも、意に反
してジワリと涙が流れてくるのだ。殆どの不良
達は、この痛さにもう悪事を働くのを止めよ
うと改心するのだが、なかにはこれからこの教
師達にばれないようにしなければと、考える
不良もいた。体力的には教師に勝るものを持
っていても、心底では教師という地位を尊敬す
る気持ちがあることと、拳骨制裁教師が醸し
出す大人の気迫に圧倒されて、逆らえる者は
なかった。例え最悪の不良であっても、面と向
かい合えば逃げの一手であった。
 世間全般が特に地方においては尚更強い、盲
目的な教師尊敬心が存する風潮において、教
師の暴力に付いて否定的な考えがない状況で
は、子供達は教師に逆らうことなど、国賊と
も考えられるほどに洗脳されていた。更に家に  9
帰り、教師に暴力を振るわれたことを告げた   3
ものなら、父親から理由も聞かれず
「先生に殴られるのはお前が悪いからだ」と再
び殴られるのだった。従って生徒による校内
暴力や家庭内暴力は殆ど存在しなかった。   
「伊吹くうん」弥生先生が職員室の左隅から手  
を振って呼んだ。
「は、はい」権次は胸がどきりとして、心臓が
早鐘のように打ち始めた。
「昨日絵を見てたら、どうしても絵を描きたい
と言った伊吹君の絵がないじゃないの。どう
したの?」
「あのう、どうしても授業時間に描けなかった
ので、家で描いてきました」
「まあ描いてきてくれたの。モデルがいない
のによく描けましたねえ」
「そ、それは先生の顔は頭の中に残ってます
から」権次の唇がぴくぴくと震えていた。弥生