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翌日朝のホームルームが終わると、石田教諭
が権次を呼んだ。
「伊吹、弥生先生が職員室に来るように言っ
てたぞ、お前昨日絵を出さなかったらしいな」
「心配要りませんよ、授業中出来なかった分
を家で描いてきましたけん」権次は教諭に向
かって絵を開いて見せた。
「おう、伊吹にしては綺麗に描けとるじゃない
か。はよ職員室に行ってこい」教諭が促した。
「はいはい」権次は完一にウインクをして、絵
を持って教室を出て行った。
 職員室に入るといきなり声が掛った。
「おう伊吹、勉強頑張っとるか?」雲龍だった。
雲龍とは書道の雅号であるが、まさしく龍で
あり、触れてはいけない逆鱗を持っていた。
そこに触れたものは、遠慮会釈の無い制裁を
受けなければならなかった。昨年権次の担任   8
で、二年の国語を担当している。剣道二段の    3
腕前であり、空手三段のロングと共に、不良
たちを震え上がらせる教諭である。
「はい、私なりに頑張っています」
「はっはっは私なりにか。それでええんじゃ。
背伸びしてもいかんけんのう」隣の席からロ
ングも笑っていた。ロングとは名字が長井な
ので、英語で読みなおしただけの渾名である。
授業は社会科を持っているが、この笑顔の裏
に恐ろしさを秘めている教諭である。
 M中学には校長の外に二十三人の教諭がい  
て、男性教諭が十六人である。殆どが教師とい  
う職業がら温厚な人間であり、話し合い、ある
いは説教による教育を旨としているが、拳骨
制裁こそ教育という信条なのが雲龍とロング
更に由井大である。このような教諭はどの学
校にも二、三人はいた。僅かなりとも手加減
をしたり、急所を外しているのだろうが、その