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けて」
「いかん後はごんちゃんが描かないかん」完一
が立ち上がり権次の肩を押しながら椅子に
座らせた。権次は完一のアドバイスを聞きな
がら鉛筆を動かせた。三十分くらいでまずま
ずの絵が描けた。
「わしが中学最後に真剣に絵を描いてみた
い言うたとかんちゃんが弁解してくれたけど、
こうやって自分が思うように絵が描けると、
美術も楽しいなあ。わし本格的に絵を描いて
みるかなあ」
「そうか、ごんちゃんは絵の素質はないようじ
ゃけど、それは努力でカバーできるけん頑張
れよ。さあデッサンは出来たけん後は絵の具
を塗れよ。ええか水彩画は絵の具を濃いく塗
ったらいかんぞ。うすうく薄く塗り重ねるん
じゃ。最後には絵の濃淡を付けるんじゃ、影   7
の部分を作るんよのう。影はその色を少し濃   3
いいくすればええんじゃ」
「おっけえじゃ」
「まあまあ今日は絵の勉強かね。カステラと
紅茶ですけどどうぞ」和服を着た母親がゆっ
くりと上がってきて、小さな応接台に置いた。
「いつも済みません。今日はかんちゃんに絵
を教えてもらってるんですよ。満足できる絵
が描けるかどうかで、僕の一生が、ひいて
はかんちゃんの一生が決まるんですよ」権次
が嬉しそうに言った。
「まあ、たかが一枚の絵で大袈裟ね、だけど
そのモデルは誰なの?」
「母さんいいから、もう下に降りてや」完一が
母親の背中を押した。
「はいはい」母親は後ろを見ながら、一階に  
降りて行った。権次がカステラを掴みながら  
完一を見てにやりと笑った。