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ような形にしてくれと言った。
「姉ちゃんは権次の栄養のことは考えとるけん
ね、例えおかずが一種類でも栄養が取れとり
ゃええんよ。ウインナーソーセージなんか見
た目は美味しそうじゃけど、高いだけで栄養
はないんじゃけん。兄ちゃんなんか弁当で一
言も文句言わせんよ」兄弟の弁当は毎日麦飯
に目刺し三匹とか、竹輪半分とかであった。い
つだったかそれを見た八百屋の息子で、毎日
売り物であろうコロッケを入れている安井が
「うわあそれはおかずにならんぞ」と軽はずみ
なことを言った。権次は無言で安井を滅多打
ちにしてしまったことがあった。。
 権次はいつものように弁当の蓋をこっそりと 
開けて驚いた。いつもの麦飯の中に、おかず   
が四種類入っていたのだ。まず卵焼きが二切
れ、長方形に切った沢庵が三個、烏賊の佃煮   5
が少々、それに蛸の形をしたウインナーソー   3
セージが二個あったのだ。蛸は短い四本足が
くるりと曲がり、赤くてかついていた。
"姉ちゃん有難う。これでわしもこのクラスで
顔が立つというもんよ。いっつもわしを貧乏人
じゃと思おとる奴らの鼻が明かせたわい"権
次は呟きながら、弁当をひけらかすようにし
て食べた。普段は弁当箱の蓋で隠すようにし
て食べる権次が、辺りを見回しながら食べて
も誰も権次の弁当を見ている者はなかった。
権次は無性に腹が立って、誰彼なく殴りた
くなってきた。しかし完一は権次の弁当をそっ
と見ていたのだった。そして明日からもこの
弁当が続く状況ではないことを察知していた。
だから権次の弁当のことなど普段から全く気
にしてないという態度を取っていたのだ。
 六時限目の授業が終わると完一と権次は
急いで完一の家に向かった。