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い下手は関係ない言うんじゃが。ごんちゃん
今日わし付き合(お)うてやるけん家(うち)で
絵描こう。な、出来ることはわしアドバイスす
るけん」
「えっ、かんちゃん方で絵を描かしてくれるの
か?」
「うん、帰りにわし画用紙買(こ)うてやるけん」
「かんちゃん恩にきまっせ。持つべきは友達じ
ゃ。嬉しいのう。こらあお前ら喧しいぞ、なんぼ
休み時間でも静かにせい」権次はこれでもう、
完一に軽蔑した言葉を浴びせられたことなど
忘れてしまっていた。
「ごんちゃん何言うとるん、いっつも一番騒がし
いんはごんちゃんじゃろがね」向こう意気の強
い大澤弘美が口を尖らせて言った。
「おおさわあ、お前偏平足の顔して何言うとる
んぞ、わしなんかいっつも静かなもんじゃろが、 4 
つまらんこと言うたらほっぺた叩いて余計に   3 
膨らますぞ」
「余計に言うて、私のほっぺたが膨らんどる言 
うんかね。自分は祭りの獅子みたいな顔して」 
「やめてくれや、お前にだけは顔のこと言われ
たないわい」完一が笑いながら二人に割って
入った。
「まあまあええが、どっちも顔のこと言う資格
ないが」二人が同時に異議を唱えた。
「さあ、昼じゃけん弁当にするか」完一が話を
逸らすように言った。つられるように「飯じゃ飯
じゃ」と言う声が聞こえたが、もう既に食べてい
る者もいた。
 権次は昼食時間が苦手だった。それは姉が
作ってくれる弁当が、他の生徒の弁当に比べ
てあまりにも質素だからである。姉におかずは
四種類は入れてくれ。そしてウインナーソーセ
ージに切れ目を入れて油で炒めて蛸の足のよ