newpage33
と覆してしまいかねない、人を恋うる心の
悪魔のような囁きを恐ろしく感じていた。し
かし完一の良心の一部が、どちらが弥生先
生の心を射止めるにしても、それはフェアで
なければならないと訴えていた。同時に昨日
屋上で権次に弥生先生を諦めさせるためと
はいえ、"弥生先生と結婚しても両親が離婚
した原因と同じようなことで別れるだろう"
と権次ばかりでなく権次の両親まで巻き込
んで差別したようなことを言った自分が恥ず
かしく思えてきた。
「うん、ええ絵を描いて先生にごんちゃんを
印象付けいよ」いつもの純粋に親友を思う気
持ちが自然に湧いてきた。
「あいよ」だが権次の絵は、絵の具を塗り始
めると更にひどくなった。デッサンの失敗は
消しゴムで消せたものの、絵の具の失敗を    2
塗り重ねるものだから、小学生のようなコテ   3
コテの絵になってしまった。もう弥生先生の
顔などではなく、番町皿屋敷のお岩のような
顔になっていた。完一は権次の絵を盗み見
て、思わず額に手を当て俯いてしまった。し
かし自分の絵の濃淡に取り掛かっていた。  
「あと二十分ですが皆さん大丈夫ですか?」 
弥生先生の声に室内ががやがやし始めた。
やがて弥生先生が立ち上がり、微笑みなが 
らゆっくりと全員の絵を見て回り始めた。  
「皆さん時間ですから最後列の人は、絵を
集めて下さい。それから皆さんの絵を見せ
てもらったのですが、菊池君と阿部さんの絵
は、なんだか私そっくりのような気がしました
ので、記念に頂きます」うわあというようなど
よめきが室内に怒った。その時権次の列の
最後尾の江戸孝が権次の絵に手をかけた。
権次はいきなり江戸から絵を取り返し、どよ