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を助けるという気持ちは消え失せ、委員長と
してのプライドを守ることと、弥生先生に自分
まで悪印象を与えたくない保身の気持ちだけ
になっていた。
「ごんちゃんは僕の親友だから、顔を見ただ
けで彼が何を考えているかよく分ります。今
は山本君を殴ったことを深く反省しています
し、昨日のことですが中学最後に真剣に絵
を書いてみたいと言ってましたところですか
ら、絵を描かせて下さい」
「それでは伊吹君、山本君に謝りなさい。そ
れで山本君が許してくれれば、続いて絵を描
いてよろしい」
「ヤント、暴力を振るうたこと済まんかった。
こらえてくれるか?」山本はヤントと呼ばれ
ていて、小柄だが腕白な生徒である。
「うん、もともとわしがごんちゃんの絵をけ  1
なしたのが悪かったんじゃけんのう。ほじゃ  3
けどごんちゃんのパンチはよう効いたぜ、ま
だ頭がくらくらするぞ」赤く腫れあがった頬
を押さえながら、ヤントは言った。
「済まん済まん」権次が両手を顔の前で拝む
ように二度振った。
「それでは伊吹君絵を描いてね」
「はい」権次は考えられないト―ンで返事を
して、嬉しそうに座席に座った。暫くして完  
一が自分の絵を見てよしと頷いて立ち上がり、
水を汲みに行った。鉛筆をなぞったデッサン
は見事なもので、弥生先生そっくりだった。
権次も水を汲みに行った。廊下の手洗い場の
いくつもの蛇口の前で、すれ違った完一に権
次が「助けてくれて済まんかったのう。綺麗
な絵を描くけんのう」ウインクをしながら言
った。完一は先ほどの自分の心根を思い出す
と面映ゆくなり、自分の人間性まであっさり