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丸いような顔だが顎のあたりは細い顔を画用
紙に描くと、何故か丸いだけの顔になるのだ。
おまけに自信がないものだから、線が揺れて
直線でないのだ。まして目や鼻など左右が同
じに書けないからバランスもおかしい。
「ごんちゃんの絵すごいぞ、ピカソじゃ」権次
はいきなり立ち上がり、山本常夫の顔を殴っ
た。山本は机の列にぶつかりながら床に倒
れた。
「伊吹君なんてことをするんですか、先生は
暴力を振るう人は嫌いです。絵を描く資格な
んかありません。廊下で立ってなさい」弥生
先生は怒りを込めた顔で立ち上がり、廊下
を指差した。権次は悲しそうな顔をして、が
っくりと肩を落とした。
「先生ごんちゃんに絵を描かせて下さい。ご
んちゃんはどうしてもこの絵を描きたいの   0
です」完一が立ちあがって言った。       3
 しかし、心の中でしまったと思った。ここ
は黙っておけば、権次が弥生先生から嫌われ
て、自分が有利になるものを、どうしておせ
っかいなことを言ってしまったのか分らなか
った。
「伊吹君がどうして絵を描きたいのですか?」
後先を考えずに全く無意識に権次を庇ってし
まった完一は、そう聞かれると困ってしまった。
弥生先生への権次の気持ちを言ったりできる
ものではなかった。だからいつもの完一らしく
ない態度で「あのう」と小声になっていた。
「かんちゃんもうええんじゃ」権次が小さな声
で言いながらゆっくりと立ち上がった。    
 完一はこれ以上無様な態度を級友にさらす 
ことは、委員長としての沽券に関わると思っ
た。落ち着いていつものように堂々とした態
度で、対処するしかない。そこにはもう権次