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方法はワンパターンじゃけんのう、読まれて
ますよ。もう少し工夫をせんと」由井大は笑
いを浮かべながら権次を見ていた。
 翌日の三時限目四時限目は美術だった。
「昨日はあんなによい天気だったのに、今日
は生憎雨だから、室内で人物を描いてもらお
うと思います。モデルは私です」弥生先生が
降りしきる雨を見ながら言った。
「うわおう」ひょうきん者の岡田英昭が、訳
の分らない奇声をあげた。
 弥生先生が教壇の机をおもむろにずらそ
うとした。
「先生、美人がそんな重たい物を持っちゃい
かん、僕が動かしますよ」最前列の谷口宏造 
がさらりと言いながら、机を左の隅にずらした。
「ありがとう、谷口君はよく気が付くねえ」弥
生先生が谷口に微笑みながら礼を言った。完
一の心に燃えるような嫉妬心が起き、自分が   8
その行動を取らなかったことを情けなく思った。 2
席が中央であろうが、自分が出て行って先生
を手伝うのは、委員長としておかしくはなかっ
た。だがどう考えても完一には机こそ動かせ
ても、谷口のように「美人がそんな重たい物を
持っちゃいかん」などとさらりと言えないと分っ
ていた。それは完一の控えめな性格であり、
更に弥生先生を思う気持ちが行動、言動を抑
制していた。
 弥生先生の微笑みを自分が受けれなかった
悔しさで、そっと権次の横顔を盗み見た。一重
の瞼が吊りあがっているくせに、口がぽかんと
開いていた。
「それでは一時間半で私を書いて下さい」弥生
先生は言いながら、椅子に座り正面を向いた。
中肉中背の体は平凡だが、やや赤みがかった
ふわりとした髪の下にある顔は、ふっくらとして
いるようで細い顔立ちであり、透けるような色白