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その表情を見て、完一にも自分で理解できな
い怒りが湧いてきた。
「ごんちゃん、弥生先生は何不自由なく暮ら
してきたお嬢さんぞ。そのごんちゃんのどん
なことでもしてあげようと思う気持ちだけで
は弥生先生は満足せんぞ。やっぱり高級な生
活させてあげんと、いつかは破綻するのは目 
に見えとるぞ」権次の顔が更に怒りの表情に  
なった。
「かんちゃん汚いぞ。貧乏人のわしは弥生先
生と結婚できん言うんか。自分なら金持ちじ
ゃけん弥生先生と結婚出来る言うんか。そん
なもんじゃないぞ、恋愛は金じゃない、愛情
の深さの問題じゃ」完一は弥生先生がお嬢さ
んの生活の為、権次を諦めさせようとした自
分に恥じるとともに、恋愛は金じゃない、愛
情の深さと言った権次の愛に関する考え方   4
の深さに驚いていた。完一にはとても考えら   2
れない言葉であった。だからと言って、弥生
先生を権次に譲る気は毛頭なかった。
「親が金を持っとっても、わしが金持ちとか
いうわけじゃないけど、金がないと生活は苦
しい。苦しいと不平不満が出て言い争いにも
なる。したくもない喧嘩をして愛情は薄れて
ゆくぞ」
「かんちゃんは理屈でものを考えるのが欠点
なんじゃ。結婚生活は金なんかなかってもえ
え。コッペパン一つ分け合(お)うて食べても、
それが夫婦の楽しい絆になるんじゃ」
「ごんちゃん、なんかおかしいぞ、何事にも
超現実主義のごんちゃんが、こと結婚のこと
になったらわしが言うようなこと言うけど、そ
れはごんちゃんには似合わんぞ。普段のご
んちゃんなら、愛情は空腹の足しにはならん
と言うところぞ」