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「おう、かんちゃんも栄光高校の試験まで一ヶ
月じゃけん頑張れよ。もっともM中で一番の
秀才のかんちゃんが、栄光落ちるわけないけ
どのう」権次が自分の嬉しさのようににこにこ
笑いながら言った。栄光高校は四国で一番の
私立名門高校であり、関東方面からの受験者
も多数いる。
「こればっかりは分らん。一発勝負じゃけん、
その日の体調も運もあるし、それにわし最近
なんかおかしいんじゃ」完一が深刻な顔で言
った。
「何がおかしいんじゃ?」
「ううん」完一は御幸寺山の上に浮かんだ雲
を見つめたまま、口籠った。
「かんちゃん何がおかしいんじゃ、わしに言
うてみいや」
「誰にも言うたらいかんぞ」             0
「言わせんがや」                   2
「わし最近ある人のこと思うたら、ここらへ
んが苦しいんじゃ、勉強も手に付かんぐらい
に」完一は胸を右手で抑えた。権次が完一
を見つめながら言った。
「かんちゃん、お前女に惚れたな。誰じゃ」
「誰ってそんなこと言えれんわい」
「わしにも言えれんのか?親友のわしにも。 
かんちゃんの悩みはわしの悩みじゃ。わしが  
解決してやる。女の事ならかんちゃんよりも
わしのほうがよう知っとるぞ。わしが相手に
かんちゃんの気持ちを伝えてやってもええ。
誰ぞう?秀子か、幸子か、尚子か?」権次は
クラスの美人三人の名をあげた。しかし完一
は静かに首を横に振った。
「ええい、じれったいのう、誰ぞう」
「ごんちゃん何とかしてくれるんか?」完一
の彫りの深い顔に苦悩の色が滲んでいた。