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「親分松山はやけに暑いじゃないですか。大
阪より暑うおまっせ」若者は青色のアイスキ
ャンディを齧りながら言った。土手の樹木の
アブラ蝉とクマ蝉の大合唱が、オーケストラ
を奏でているようである。
「松山は暑いだけじゃが、大阪はクソ暑いん
じゃ。同じ汗を掻いてものう、大阪での汗は
ねちねちするんじゃけど、松山での汗はさら
っとしとるじゃろが、分るかこの違い」親分は
スーツを涼しげに着こなしている。
「暑さにそんな違いがあるんでっか?わいに
は分りまへんわ、それよりも親分は義理堅
い方やから、先代の墓参りはようされますの
に、親父さんや先生とかいう人の墓参りが二
十四年振りというのは意外ですわなあ。先ほ
ど行った先生は何の先生でっか?」
「中学の担任や」親分は無愛想に言った。   2
 二人は今朝十時頃松山に到着し、郊外にあ
る石田家と刻まれた墓参りをし、昼食をとっ
た後ここ御幸町に来たのだった。
「親父さんの墓参りと言われましたが、あの
伊吹家の墓にはご両親が眠られとるんでっし
ゃろ?」親分は返事をしないで無表情で池に
映る松山城の天守閣を眺めていた。入道雲
がもくもくと天守閣を包み始めていた。
 親分は十八歳で少年院を出所した時に、父
親と石田教諭の墓参りをし、その足で大阪へ
旅立ちその後初めての帰郷であった。
「タバコ」若者が未練がましくしゃぶっていたア
イスキャンディのステックを土手に捨てて、急
いで大きなシガレットケースから葉巻を取り出
した。包んでいるナイロンを外し、親分に渡しカ
ルチェのライターで火を付けた。
 親分はいかつい顔を崩し、大きな鼻を膨らま
すように煙を吐いた。煙は城山の樹木を紫色