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をしなさい」
「まかしてちょ。わしは家のことで、いつもど
うしようもなく苦しく辛い思いに立たされ、  
ええい家出でもしてやろうかと考えたりす
るが、憶良もわしみたいに、苦しく辛い立
場に立たされ、どうしようか、家も世の中
も捨てて逃げてしもちゃろかと思うけど、
やっぱり子供らのことを考えると、そんなこ
とはできんなあという歌じゃ」
「大統領、ごんちゃん大統領じゃ」隣の席の
完一が権次の手首を持って差し上げた。
「いやいや、それほどでもありますよ。君た
ちも僕のようにもっともっと勉強して、僕の
足元くらいには近づきなさいよ」権次はクラ
ス中を見回して嬉しそうに言った。
「その調子で外の勉強がどうして出来んのか   8
不思議なことよのう」石田教諭が言うのを権   1
次が遮るように言った。
「先生それを言うたらいかんて。わしみたいな
不良が勉強出来たらおかしかろがね。不良は
勉強が出来ん、勉強が出来んけん不良じゃが
ね」
「伊吹、お前の考えはおかしいぞ。不良を自慢
にしとるようにも聞こえるが、そんなものは自慢
にもなんにもならん。しかし、仮に不良であって
も優等生でええんじゃ。もっと勉強を頑張れ、と
いうことで今日の授業はこれまで」完一がタイミ
ングよく「起立」と言った。椅子がガタガタとなる
音がして全員が立ち上がった。「令」で全員が
頭を下げた。しかしチャイムは鳴らなかった。石
田教諭は不思議そうに首を捻りながら教室を出
て行った。この教諭は授業が始まると、背広の
内ポケットから懐中時計を出して教壇の机の上
に置いて、ちらちらと時計を見ながら進行し、授
業終了と言う言葉と同時に、チャイムが鳴るの