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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科専門クリニックです

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

免疫不全について ~耳鼻咽喉科での注意点~

  免疫機構には、T細胞や抗体を介して特定の病原体を防御する獲得免疫と、マクロファージや樹状細胞・NK細胞・好中球を介して病原体の共通部分をパターン認識して応答する自然免疫があります。免疫不全とは、外界の細菌やウイルス・真菌(かび)などの病原微生物から体を守る免疫が正常に働かなくなる状態です。
 耳鼻科領域では、風邪が治らず解熱しない、度々発熱する、中耳炎・副鼻腔炎・扁桃炎を繰り返す、ヘルペスが度々発症する、外耳道や鼻の湿疹が治らない、顔面の難治性の膿痂疹(とびひ)、難治性口内炎、口腔カンジダ症(真菌症)など低病原性の微生物に対する抵抗力が弱まって発症する日和見感染症などに注意します。
 急性発症では、感染症や薬剤アレルギーによる好中球減少や白血病・多発性骨髄腫などの骨髄の腫瘍、小児では遺伝的な体質による先天性免疫不全、周期性発熱症候群、成人では感染による後天性免疫不全(AIDS)に注意します。

1、抗体産生機能の異常:体液性免疫―B細胞から作られる免疫グロブリン(Ig、抗体)の異常
検査:血清IgG、IgA、IgM:免疫グロブリンの中でも感染防御に関与する
  B細胞数
   CD40リガンド:ヘルパーT細胞に発現する免疫グロブリンのクラススイッチ誘導を促進する
   Igサブクラス:IgG4欠損症などのサブクラス欠損を確認する

2、T細胞系の異常:細胞性免疫―免疫のネットワークを司るリンパ球の中のT細胞の機能低下の異常
 小児:遺伝的な先天性
 成人:AIDS―ヒト免疫不全ウイルスHIVの感染でCD4陽性Tリンパ球を破壊
  急性初期感染期:感染後2~4週。発熱、咽頭痛、筋肉痛、皮疹、リンパ節腫脹、頭痛などのインフルエンザや伝染性単核症様症状。数日~10週間で自然軽快。
  無症候期~中期:感染後6月~10年。血中に抗体が産生され、ウイルス量は減少し無症候期入り。エイズ発症前駆期(中期)になると、発熱、倦怠感、リンパ節腫脹などが出現し帯状疱疹などを発症。
   エイズ発症期:HIV の増殖とともにCD4リンパ球の破壊が進み、200㎣ 以下でカリニ肺炎などの日和見感染症。50㎣で中枢神経系の悪性リンパ腫などを発症。
   検査:末梢血T細胞数 CD4、CD8

3、好中球の異常:食細胞機能異常―病原微生物を貪食する白血球の中の顆粒球の主成分である好中球の減少による異常
 ①好中球減少症:タイプは、先天性、同種免疫性、慢性良性、周期性、低ガンマグロブリンを伴う、先天性代謝異常を伴う、Myelokathexis(骨髄好中球の異常)、薬剤(抗甲状腺薬、抗てんかん薬、抗生物質など)、感染症、脾機能亢進症、放射線、栄養など
 ②好中球機能異常: 慢性肉芽腫症、 白血球粘着不全症、好中球G-6-PD欠損症、ミエロペルオキシダーゼ欠損症、二次顆粒欠損症 、 Shwachman症候群など
  症状:口内炎、歯肉炎、肛門周囲膿瘍や臍炎などの皮膚化膿症。創傷治癒遅延。
  検査:末梢血好中球数1500㎣以下 (特に500㎣以下)、自己抗体(抗好中球抗体含む)、補体、骨髄検査

4、骨髄機能の異常:白血球を産生する骨髄の異常
 白血病:正常な細胞が骨髄で作られなくなることと、癌化した細胞が骨髄外で増殖することで障害を起こし、貧血、出血、感染、肝臓・脾臓の腫れ、発熱、骨痛、脳脊髄での増殖による頭痛・嘔吐などを引き起こす。
 急性リンパ性白血病;小児白血病の70%、リンパ球細胞が癌化し無制限に増殖。2~5歳での発症が多い、日本では年間500人が発症。
 急性骨髄性白血病;小児白血病の25%、骨髄球系前駆細胞が癌化し無制限に増殖、日本では年間180人が発症。
 多発性骨髄腫:B細胞から分化した抗体をつくる働きを持つ形質細胞が癌化して骨髄腫細胞化、正常な抗体の働きを持たないMタンパクが増殖。

5、自己炎症性疾患:主に自然免の調節機能低下。遺伝的な場合とない場合がある。
症状:自分で勝手に炎症が起こり、周期的な発熱、関節・臓器の急性炎症の発症と自然な改善を繰り返す
検査:遺伝子検査など
 遺伝性:周期性発熱(家族性地中海熱、高IgD症候群/メバロン酸キナーゼ欠損症、TNF受容体関連周期性症候群)
  NLRP関連疾患(クリオピリン関連周期性発熱症候群、NLRP12関連周期熱症候群)
  肉芽腫性疾患(ブラウ症候群/若年性サルコイドーシス)
  化膿性疾患(PAPA症候群、Majeed症候群、IL-1受容体アンタゴニスト欠損症)
 非遺伝性PFAPA (Periodic fever ,aphtha ,pharyngitis, adenitis) 症候群:5才以下で発症、最も頻度が高い、1999年に提唱された
 症状:3~6日間続く周期性発熱発作、アフタ性口内炎・頸部リンパ節炎・咽頭扁桃炎の併発、発作を3~8週間毎に繰り返し、間欠期に無症状、4~8年で寛解、成長発達障害を認めない
 治療:制酸剤(H2ブロッカー)、ステロイド(一時的効果)、コルヒチンなど。扁桃摘出術が著効(寛解率70~80%)
 その他:自己免疫疾患・膠原病とされる、全身型若年性特発性関節炎、成人スティル病、ベーチェット病、クローン病、遺伝性血管性浮腫、ゴーシェ病、痛風、偽痛風も自己抗体や自己反応性T細胞が認められないため自己炎症疾患類縁の可能性あり

6、その他:複合免疫不全症、症候を伴う遺伝的な免疫不全症、補体欠損症など

<原発性免疫不全症を疑う10の兆候>  
 (免疫不全症データベース(PIDJ)より)
 1、乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる。
 2、1年に2回以上肺炎にかかる。
 3、気管支拡張症を発症する。
 4、2回以上、髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症や、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症にかかる。
 5、抗菌薬を服用しても2か月以上感染症が治癒しない。
 6、重症副鼻腔炎を繰り返す。
 7、1年に4回以上、中耳炎にかかる。
 8、1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重症・広範な疣贅(いぼ)がみられる。
 9、BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貪食症候群に罹患したことがある。
 10、家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある。