唾液腺とは口の回りにある唾液(つば)を作る組織の総称です。耳下腺、顎下腺、舌下腺、小唾液腺があります。唾液腺の手術は頭頚部外科として耳鼻咽喉科医が専門に行います。(ただし顎下腺、舌下腺の手術は歯科領域の口腔外科医も扱います)
主な検査:
血液検査
アミラーゼ;唾液腺の炎症の有無を確認します。*膵臓の炎症でも陽性化します。
おたふく風邪の抗体;過去の感染(ムンプスIgG抗体陽性)、今回の感染(発症1週間以降でムンプスIgM抗体陽性)で感染の確認ができます。
抗体;シェーグレン病(抗SS-A抗体、抗SS-B抗体)、膠原病(ANA)、IgG4関連疾患(IgG4)の有無を確認します。
唾液腺分泌機能検査;唾液の出る量を調べます。
超音波(エコー)検査
造影X線検査;造影剤を唾液腺管の出口から注入し、唾液腺
を染めます。耳下腺、顎下腺の炎症、腫瘍、
唾石の診断に用います。
CT、MRI、RI検査
小唾液腺生検、穿刺吸引細胞診
主な病気:
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ);ムンプスウイルスが原因で、唾液を通じての飛沫や接触ですべての人が感染します。日本ではNMRワクチンを中止した1990年からは約3年毎に流行する傾向があり、ムンプス難聴の増加を危惧する意見があります。潜伏期はおおよそ2〜3週間で、感染力は比較的弱く、不顕性感染(感染しているのに症状が出ない)が30〜40%あります。4才以上では顕性感染が90%ですが、不顕性感染が女性や2才以下に多いと言われています。感染する年齢としては、1〜2歳の乳幼児期は比較的少なく5〜10歳頃が一番多くなります。(おおよそ85%は15歳以下です。)なお母親からの抗体は、生後10ヶ月くらいまでは有効だと言われています。
●症状:
耳下腺部(耳たぶ〜耳の前のあごのラインに沿って)が腫れます。ふつうは、片側から始まり、1〜2日のうちに両側が腫れてきます。片側しか腫れない場合も3割あります。腫れは、痛みがありますが赤くはなったりはせず、3日くらいでピークをむかえ、1週間から10日程度で消失します。約50%の人は、顎下腺や舌下腺も腫れます。約80%の人に発熱があります。中程度の発熱が多く、発熱期間も合併症がなければ、1〜3日程度が多いようです。発熱に伴い、頭痛や腹痛がでることもあります。
●合併症:
A) 無菌性髄膜炎;他の無菌性髄膜炎と同じ症状で、発熱、頭痛、嘔吐が主症状です。頻度は、おたふくかぜの3〜10%です。発症時期は、耳下腺が腫れ出してから4日以内が50〜60%となっていますが、耳下腺が腫れ出す前(20%)や耳下腺が腫れない場合(4〜5%)もあります。予後は良好で大部分は2週間程度で後遺症なく治ります。ムンプスウイルスは脳への移行や親和性が高く、髄膜炎まで至らなくとも軽度の頭痛は認めることが多いですので、発病初期に不用意に体力=免疫力を落とさないことが大事です。
B) 脳炎・脊髄炎;頻度0.02〜0.3%です。2〜3日で急激に発症し、髄膜炎の症状の他に麻痺や意識障害なども加わります。
C) 精巣(睾丸)炎・卵巣炎;思春期以前はまれです。精巣炎は、成人男性の25%で起こり、耳下腺腫脹後4〜10日くらいに多いとされます。主な症状は、発熱、頭痛、悪心、精巣の激痛・腫れ、陰嚢の発赤などで、3〜7日くらい続きます。まれに睾丸の萎縮を起こすこともありますが、片側だけのことが大部分なので不妊症となることはまれです。卵巣炎の症状は下腹部痛が多いようです。
D) 膵臓炎;合併率は数%といわれています。7〜10日目頃に多く発熱、上腹部痛、悪心、嘔吐、下痢などの膵炎の症状があります。だいたいは1週間程度で治ります。
E) ムンプス難聴;頻度は0.1〜0.25%です。片側ですが、高度で回復が困難です。小児の後天的高度難聴の最大の原因です。3〜7日目頃に多く、突然めまい、耳鳴り、嘔吐、ふらつきなどとともに耳が聞こえにくくなります。
F) 心筋炎;おもに成人の合併症で、頻度としてはごくまれです。胸痛、頻脈、呼吸困難などの症状が、1〜2週後から出現し、突然死することもあります。
●いつまでうつりますか? いつから登校・登園してもいいですか?
耳下腺が腫れる3日前から、耳下腺が腫れだして4日目くらいまでが感染期間と考えられています。また不顕性感染(感染しているのに症状が出ない)の人からも感染することがあり、集団発生はなかなか防ぎきれませんが、はしか、水ぼうそう、インフルエンザのように感染力は強くないので、家族でもうつらない場合も多いです。学校保健法での出席停止は「症状が出てから5日経過するまで」と決められています。ふつう耳下腺の腫脹は5〜10日間程度続きます。しかしいろいろな合併症の可能性もありますので、無理はしないことが大事です。松山市の小中学校では口頭で連絡すれば公欠扱いとなります。
●おたふくかぜの治療は?
特別な治療法はありません。症状や合併症に応じて対処療法で経過をみます。耳下腺の腫れや痛みが強い場合には鎮痛解熱剤を頓用で使用します。唾液の出やすいすっぱい食事は避け、腫れや熱が目だっていれば、シャワー程度の軽い入浴にします。
●おたふくかぜは2回以上かかりますか?
従来は二度と罹らないと考えられていましたが、近年、小児科領域でも耳鼻科領域でも再感染の報告が出てきました。再度腫脹した場合は、他のウイルス(パラインフルエンザ・インフルエンザ・コクサッキー・エコー・サイトメガロなど)に感染した可能性や、反復性耳下腺炎の可能性が高いですが、再感染が疑われる場合は、ムンプス抗体の変化で類推します。
●おたふくかぜの予防接種
予防には接種が有効です。近年の接種率の低下とともにムンプス難聴が増加傾向にあるとの報告からその重要性が指摘されています。しかし、抗体獲得率は90%程度と予防接種の中ではやや低く、以前新NMRワクチンとして強制接種を施行していた際に無菌性髄膜炎の副反応が見られたことから当時の厚生省が任意接種に戻した経緯もあり、接種の可否についてはかかりつけのドクターとよく相談の上ご判断下さい。 (現在当院では予防接種は行っておりません)
急性耳下腺炎、顎下腺炎;ウイルス、細菌、まれに結核やカビ、アレルギーが原因となります。ウイルスは一般的なかぜ(上気道炎)のウイルスが主ですが、コクサッキー、パラインフルエンザ3型、EBウイルス(伝染性単核症)など、原因が特定できる場合もあります。耳下腺腫脹は比較的短期間で消退することが多いです。
*小児が、初めて軽度で片側性の耳下腺炎を起こした場合、原因が一般的なかぜのウイルスか、おたふくかぜか、反復性耳下腺炎なのかの厳密な診断は困難です。周囲でのおたふくかぜの流行状況、のどの所見などから総合的に判断します。確定診断のために、血液検査やエコー検査を行う場合もあります。
反復性耳下腺炎;不定期的に反復する耳下腺炎で、通常片側の耳下腺全体のびまん性腫脹(全体に腫れる)が数日〜数週間続きます。主たる原因は唾液管末端拡張症です。成人にもみられるが、主に10歳以下に発症し、5〜6歳にピークがあります。原因の炎症は口腔内常在菌がかぜその他で体力が低下した際に逆行性に感染して起こります。小学校高学年以降で頻繁に腫れる場合には、腫れのない時期に造影X線検査も考慮します。特に20歳以上の女性では、シェーグレン症候群に注意します。
唾石:唾液の成分が結晶化したもので、唾液の流出が妨げられるために奥で化膿します。粘稠な唾液を産生する顎下腺に多くみられます。化膿が軽度なら、唾液腺マッサージで自然排出を試みます。排出が見られない場合、口内に近い部分(管内唾石)ならば口の中からの摘出を、唾液腺の中にある場合(腺内唾石)は全身麻酔下に首の外から摘出します。
ガマ腫、口唇・舌下粘液嚢胞(のうほう);舌や唇の裏に唾液が粘液状にたまった袋が出来ます。腫れが引かない場合は、レーザー照射や全摘出手術が必要になります
。
シェーグレン症候群;唾液腺が侵される自己免疫疾患で、女性に多い膠原病の一種です。唾液腺が進行性にやせて唾液の量が減少していきます。
ミクリッツ病(IgG4関連疾患):IgG4という抗体成分を作る形質細胞が浸潤して唾液腺が両側性に腫れます。肺、膵臓、腎臓、リンパ節など様々な部位が腫脹します。血中IgG4 135以上、組織検査でIgG4陽性形質細胞が増加で診断されます。PET-CTで全身検索し、ステロイドが有効です。
腫瘍(耳下腺、顎下腺、口腔底、舌、咽頭、頚部);[良性 悪性] [充実性 嚢胞性] [リンパ節、結核など]
*耳下腺腫瘍;良性:悪性は10:1 多形腺腫、ワルチン腫瘍など。疼痛、癒着、顔面神経麻痺に注意
咬筋筋炎[放線菌、嫌気性菌]
頚部蜂窩織炎[歯、鼻、皮膚、耳、口腔よりの感染]
一般的な注意:急性期は唾液がでると痛みも増します。味の濃いもの、刺激物は避けて下さい。おたふくかぜを含むウイルス性のものには、熱や痛みに対する対症療法が基本になります。直接的な効果は期待できませんが、冷湿布は痛みをやわらげます。腫れや熱感が強ければ、頭がのぼせるような熱いお風呂は控えて、軽いシャワー程度で体力を落とさないよう注意します。