前庭神経炎
内耳は、音の振動を神経の信号に変換する蝸牛と、直進運動を感じる前庭・回転運動を感じる三半規管とで出来ています。蝸牛からは蝸牛神経が、前庭と三半規管からは前庭神経が出て、脳内に情報を伝えます。前庭神経炎では前庭神経のみが急性に障害を受けて激しい回転性めまいが起こります。
症状:突発的な激しい回転性のめまい発作や嘔吐が数時間、持続的なめまいが3日程度、軽い浮動感・頭重感・回転感は数カ月持続します。めまい発作の7〜10日前に、急性上気道炎などの感冒症状の既往がある場合が多いです。
原因:風邪が先行していることからウイルス感染説(単純ヘルペスやEBウイルスの抗体価が上昇していたとの報告もあります)、血管障害説、髄液検査で蛋白の増加がみられる場合があることから神経脱髄説があります。
検査:眼振検査で健側向きの方向固定性水平性または水平・回旋混合型眼振を認め、温度眼振検査では患側の高度反応低下、電気性身体動揺検査で患側の反応低下を認めます。聴力検査は異常なく、前庭神経以外の脳神経障害の所見を認めず、CT・MRIでも異常を認めません。
治療:抗めまい薬、制吐剤などで対処療法の上、栄養補給します。上小脳動脈循環障害・小脳腫瘍・心因性めまいなどの他の疾患との鑑別がつかない時点や、嘔吐が持続するなどで自宅での看護が困難な場合には、入院の上経過をみます。
鑑別診断:めまいを伴う突発性難聴(聴力低下)、帯状疱疹ヘルペスによるハント症候群(聴力低下、顔面神経麻痺、外耳道ヘルペス疹)、上小脳動脈循環障害・小脳腫瘍(画像診断上の異常、他の脳神経症状)、心因性めまい(眼振所見や前庭障害なし)
予後:多くは1〜3ヶ月で完全に回復します。前庭神経に部分麻痺が残った場合でも代償機能で平素のめまいは消失しますが、急に頭を動かした場合の動揺感が残る場合があります。再発しやすい傾向はありません。
当院での対応:救急病院や脳神経外科で一時入院の上、他の異常が無いことが確認されて耳鼻科的な診断治療を求められるケースが大部分です。自宅での対処療法、時期をみて平衡訓練を行います。万一、自宅での療養が困難な場合には、耳鼻科総合病院での入院を相談します。