副鼻腔炎とは:
● 鼻腔と目の周りには骨でかこまれた副鼻腔があります。普段は鼻腔から空気が入り薄い粘膜で覆われています。ここにウイルス、細菌、アレルギーなどで副鼻腔の開口部から鼻腔の炎症が入ったり、粘膜がはれて開口部がふさがれたりすると、副鼻腔の粘膜に炎症が起きて副鼻腔炎となります。
● 鼻かぜに続発して急に起きたものを急性副鼻腔炎といい、おおむね3ヶ月以上治らなくなったものを慢性副鼻腔炎といいます。
● 副鼻腔に膿が充満した状態を蓄膿症と俗称します。衛生や栄養状態がよくなり抗生物質の発達した現代では少なくなりました。
原因:
● 急性副鼻腔炎は鼻腔粘膜の炎症がおよんだ場合で、風邪に続発して発症します。
● 慢性で両側が悪い場合には、アレルギー、扁桃組織の弱い体質、鼻腔が狭い体格などが複合的に関わっていることが多く、いずれも遺伝的な要因があります。薬剤に抵抗性の細菌やカビがついていることもあります。副鼻腔の病的粘膜が鼻腔まで増殖してポリープとなったり、鼻腔にできたアレルギー性のポリープが開口部を塞いだりすると悪循環でより慢性化します。
● 片側だけの場合は、癌や良性腫瘍、鼻中隔弯曲や鼻腔の骨の肥厚、虫歯の根からの炎症による歯性上顎洞炎に注意します。
● 小児では、鼻の奥のアデノイドを中心とした扁桃組織の肥大があると、急性感染を繰り返し慢性化しやすくなります。
症状:
● 鼻水;アレルギー性とウイルス性の初期は水様性、細菌性では膿性
● 後鼻漏(こうびろう);慢性的な鼻水のほとんどは鼻の奥からのどに落ちていきます。 特に小児では鼻水が全く前に出ず、湿性の咳払いや鼻すすり、たんだけのこともあります。
● 鼻づまり;小児の慢性的な集中力低下は気付かれにくいので注意します。
● 痛み;
目の上➜前頭洞炎(難治化に注意)
目の奥➜ 篩骨洞炎(視神経炎に注意)、蝶形骨洞炎(大量の後鼻漏に注意)
ほっぺた➜ 上顎洞炎(片側性の場合、歯性や癌、真菌に注意)
副鼻腔ブロック:明確な副鼻腔炎がなくとも、鼻炎で副鼻腔への換気が障害されると、副鼻腔が陰圧化して目の周囲の鈍痛を感じやすくなります。
鑑別すべき痛み:三叉神経痛、片頭痛、群発頭痛、緑内障、齲歯(根尖病巣)、鼻副鼻腔腫瘍、上咽頭腫瘍、脳腫瘍、眼窩腫瘍
● 嗅覚障害;鼻腔最上部の嗅裂表面に嗅神経が露出しています。空気が嗅粘膜に到達できないことによる呼吸性嗅覚障害と嗅粘膜自体の障害による嗅粘膜障害性嗅覚障害が合併した混合性嗅覚障害をきたします。
日常生活の注意点:
● かぜが1週間近く治らず、うみのような鼻がだんだんひどくなる場合は急性副鼻腔炎を続発した可能性が高いです。抗生物質が有効な場合が多いです。
● 慢性副鼻腔炎には変化の少ないふだんの時期(安定期)とかぜでふだんより悪くなる時期(急性増悪期)があります。ふだんより悪い時期に適切な治療を受けないと、より悪い状態で安定する可能性があります。
● 慢性副鼻腔炎で通院治療を半年以上続けてもすこしもよくならない場合には手術も検討します。
● 中高年では、若いときからの慢性副鼻腔炎の症状が変わってきた場合には注意を要します。特に血が混じる、頬がしびれて痛い、虫歯でもないのに歯が痛い、鼻汁に悪臭がするなどの症状があれば悪性腫瘍も疑っての検査が必要となります。ただし、副鼻腔炎の軽症化とともに上顎癌などの副鼻腔癌の発生頻度は近年目立って減少しています。
検 査:鼻腔ファイバー検査、副鼻腔レントゲン検査、CT、MRI、アレルギー検査、細菌検査、組織検査、嗅覚検査
治 療:
● 通院して受ける治療は保存的治療といって、鼻腔を広げ鼻汁を吸い出して掃除した後に、ネブライザーという、粘膜の腫れをとり、鼻汁を出しやすくし、細菌をなくすなどの作用のある混合液を、霧のように副鼻腔まで入れる治療を行います。
● 副鼻腔炎の薬には、時期やタイプで使い分けがあります。かぜで急に悪くなって細菌の感染がある急性期には、抗生物質を使います。上顎洞の症状が強い場合や妊娠中で内服薬が使いにくい場合には直接洗います(副鼻腔穿刺洗浄)。細菌感染が鎮まった時期には、粘膜のはれをとり鼻汁が出やすくする内服薬(消炎酵素剤)、眠気がでないで鼻汁を少なくする薬(坑アレルギー剤)、鼻のスプレー、漢方薬などを組み合わせて使用します。
● 慢性副鼻腔炎の場合は、マクロライドという細菌の増殖を抑える作用の抗生物質を少量長期(1~6ヶ月間)服用するマクロライド少量長期療法という治療法があります。これは菌を叩くというより、粘膜の機能を正常化するのが主な目的で、軽症の副鼻腔炎であれば、この治療法で完治する場合も少なくありません。この治療法の普及のおかげで手術にたよらないで治るケースが増えました。
副鼻腔炎の分類、原因、注意すべき合併症:
急性
慢性:3ヶ月以上治らない場合が目安
ウイルス性:カゼの初期
細菌性:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ菌、緑膿菌、嫌気性菌など
アレルギ―性
真菌性(カビ、アスペルギルス)
好酸球性
レントゲン所見:びまん性(充満)、粘膜肥厚性、上顎洞ポリープ、石灰化
歯性上顎洞炎:神経を抜いた後の炎症(根尖病巣)から年数を経て波及する場合が多い
鼻茸(はなたけ)(鼻ポリープ):多発性、後鼻孔ポリープ
術後性頬部嚢腫(のうしゅ):副鼻腔根本術の後、20~40年の長期を経て、頬部の痛み、しびれ、目の周囲の腫れ、視力低下で発症します。
★ アレルギ―性鼻炎、鼻過敏症、鼻中隔彎曲症、肥厚性鼻炎、小児ではアデノイド肥大があれば副鼻腔炎を起こしやすくなります。
★ 視性合併症(視神経炎など)、髄膜炎 *急な視力低下、激しい頭痛に注意があれば緊急手術の必要もあります!
★ 腫瘍:血管腫、肉芽腫、癌、血瘤腫など * 進行性の痛み、鼻血、しびれ、目の違和感があれば悪性腫瘍も疑います。
手 術:
⑴ ESS (内視鏡下副鼻腔手術)
保存的治療で良くならない場合や反復する場合には手術も検討します。昔の手術は、副鼻腔の骨を削り粘膜をできる限り剥がしていました。最近は内視鏡器具の発達で、本来の状態に近くなるよう鼻腔副鼻腔間の換気を改善させる内視鏡下手術ESSが普及しています。CT所見を重ね合わせながら安全に行えるナミゲーション手術も行われます。症状や重症度に応じて関連病院に紹介します。
両側行うか?鼻内整復術も同時に行うか?などにより手術法は様々な組み合わせがあります。1~2週間入院の上、全身麻酔でも行います。手術の後後も粘膜が落ちつくまでの半年は再発しないように経過をみる必要があります。
⑵ 鼻内整復術
鼻腔本来の形態を改善し、副鼻腔への換気を改善します。
・鼻中隔矯正術 、粘膜下下甲介骨切除術 ⇒総合病院耳鼻科に紹介します。
・鼻茸(鼻ポリープ)摘出術⇒基本的には当院の外来手術で行いますが、副鼻腔の炎症が強い場合や大きな後鼻孔ポリープは総合病院耳鼻科に紹介します。
・下鼻甲介レーザー手術、化学剤手術、高周波電気焼灼術⇒当院の外来手術で行います。
小児副鼻腔炎の特徴<小児の副鼻腔は入口が広く浅いため慢性化しにくい>
副鼻腔は骨の発育とともに徐々に空洞が大きくなり形作られます。1~2才で形成が始まり、6才である程度の大きさになり、中学生でほぼ大人の形になります。大人に比べると副鼻腔自体の大きさは小さいですが鼻腔と広くつながっています。そのためかぜの後などに急性副鼻腔炎を起こしやすく、しかも鼻汁が多い特徴があります。小学校入学前後をピークに扁桃腺やアデノイドの肥大が目立ち、ハウスダストに対するアレルギー性鼻炎の発症頻度も高いため、そのような素因のある小児では慢性化しやすくなります。しかし中学生にむかって鼻腔が広くなり、扁桃腺が縮小することから長期的には改善しやすいのです。ただし、小児期に長期的に鼻炎や副鼻腔炎が続くと、持続的な換気不良から副鼻腔の発育が抑制され小さい副鼻腔となり、高齢期に副鼻腔粘膜の弱さが再度目立ってくる傾向があります。
子供の場合には鼻づまりと鼻汁が主な症状です。鼻づまりによる口呼吸、いびき、鼻声、鼻汁がのどに流れ落ちるため生じる咳払い、頭痛、注意力・記憶力の低下、疲れやすいなど多彩な症状がでます。栄養や衛生状態が良く抗生物質も発達した現代では、昔のような単純な細菌性の副鼻腔炎は少なくなっています。しかし、アレルギー性鼻炎の合併が60%と増加し、反復性難治性の中耳炎や頑固な咳の原因にもなるために放置できない副鼻腔炎もあります。治療は薬物による治療が中心となります。ただし、小学校高学年で重症ないしは中学生以降で難治な場合には手術も選択枝となります。
好酸球性副鼻腔炎:好酸球という細胞が主体となって炎症を起こしている副鼻腔炎で、一般の炎症性の副鼻腔炎よりも治療抵抗性かつ再発の傾向の強い副鼻腔炎です。インターロイキン4.5.13というサイトカインがIgE産生、好酸球性炎症またはムチン産生などを惹起する2型炎症反応であることが解ってきました。
この病気の特徴は、
①多発性のポリープ
②嗅覚障害の合併
③一般の副鼻腔炎よりもマクロライド系抗生物質の抵抗例が多い
④ステロイドの有効例が多い
⑤しばしば喘息(特に成人発症型)の合併が認められる ⑥
ハウスダストやスギなどの特定の抗体を持つタイプも持たないタイプもある
⑦手術しても再発例が多い
治療は、ポリープの増殖に対応しながら、悪化させないことが基本です。
難病医療助成制度の対象疾患で、市役所に申請すれば”医療費自己負担2割に減額””所得に応じた月負担額の上限設定”などの優遇があります。
全身の小血管が障害される好酸球性多発血管炎性肉芽腫症EGPA(自己抗体MPO-ANCA陽性)の初期症状の可能性にも注意します。
アスピリン過敏症に伴う副鼻腔炎:アスピリン喘息はピリン様の薬理作用を有する非ステロイド性解熱鎮痛薬(NSAIDs)により発作が誘発されるという特徴を持ち、喘息発作、ピリン以外も含めた薬剤過敏症、鼻茸を3主徴とする疾患です。30~50才に発症することが多く、頻度としては成人喘息の4~30%、中等症以上では10%以上に認められると言われています。
好酸球性副鼻腔炎と非常によく似た特徴を有しており、類縁疾患と考えられています。