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当院は、耳鼻咽喉科、気管食道科、アレルギー科専門クリニックです

TEL. 089-973-8787

〒790-0045 愛媛県松山市余戸中1丁目2-1

上気道感染症と続発症・抗生物質の適応・解熱剤の使い方

<急性上気道炎(いわゆる風邪)の注意点> 当院でお渡ししておりますパンフレットの部分抜粋です

 かぜとは、鼻〜のど(上気道)に急性の炎症症状を呈する病気の総称で上気道感染症とも称します。多くは気管〜肺(下気道)にも炎症が及びます。病原菌は200種類とも言われ、90%がウイルスで、細菌、細菌とウイルスの中間の性質を持つマイコプラズマやクラミジア、寒冷刺激・アレルギーなどの非感染性要因などがあります。免疫力の低下、扁桃腺・副鼻腔・気管の弱い体質、アレルギー・好酸球性・薬剤過敏などの過敏症体質、萎縮性鼻炎などの年齢変化があると、粘膜の修復が遅くなり二次的な細菌感染を続発しやすくなります。
 症状は、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、声がれ、せき、痰などの呼吸器症状と、発熱、頭痛、全身倦怠感などの全身症状が主で、吐き気、腹痛、下痢などの消化器症状を来す場合もあります。感染では、どの部位が強く侵されたかや二次感染の程度によって病状が異なります。多くは鼻水や痰からの感染(飛沫感染)ですが、感染性胃腸炎では糞口感染、結核・水痘・麻疹は病原菌が乾燥でも死滅しないために空気感染します。

<病型による分類>
普通感冒:ライノ・コロナ・エコーウイルスなど。春、秋、冬に多い。
咽頭炎:アデノ・エンテロ(コクサッキー)ウイルスが多く、夏に多い。
喉頭炎、気管炎、声門下喉頭炎(クループ):(ウイルスとインフルエンザ桿菌)
気管支炎:(多くはパラインフルエンザなどのウイルス)
細気管支炎(喘息性気管支炎):(RS・メタニューモウイルスなど):
肺炎:高齢者の冬に細菌(肺炎球菌)やクラミジア、学童〜青壮年ではマイコプラズマやクラミジアによるものが多い。
インフルエンザ:A香港型A09年型が年末〜2月、B型(ビクトリア系山形系)が2〜3月。潜伏期は短く12時間〜2日。
感染性胃腸炎(嘔吐下痢症):冬季はロタ、ノロ、サボウイルス、大腸菌、サルモネラ菌。夏季はアデノウイルス、ブドウ球菌が代表的。ウイルスでは上気道症状も併発します。1〜2週間は便に病原菌が排泄されることが多く、家族の糞口感染に注意します。

<普通感冒(鼻風邪)の症状と経過> 春秋のライノウイルス、冬のコロナウイルス、エコーウイルスが代表的です。鼻の症状で始まりのどの痛みや軽い咳がます。鼻水は初期は水様性、粘膜の修復期である回復期に粘稠となります。下気道や全身の反応は軽く、二次感染を続発しなければ約5日で軽快します。潜伏期は2〜3日で、家族が5日後に発症するパターンが多いです。

<治療> インフルエンザ・ヘルペス以外のウイルスに有効な薬はないため、対処療法と二次感染予防が中心となります。高熱で体力の消耗が強い場合には解熱剤を、痛みが強ければ消炎鎮痛剤を、鼻の症状が強ければ抗ヒスタミン剤を、気管支の炎症が強ければ去痰剤、鎮咳剤、気管支拡張剤を用います。抗生物質がウイルスに直接効く訳ではありませんが、二次的な細菌感染の治療や予防で抗生物質を併用することもあります。ただし、初期症状はウイルスへの生体防御反応であり、過剰な消炎解熱の治療は控えます。

<日常の注意点>
@ 一般療法:冬に流行するウイルスは寒冷乾燥の環境で増殖します。発病後は部屋を暖かく保湿して、体力を低下させないように心がけます。
A 手洗い・うがいの励行:飛沫感染や、他の人の鼻水に直接触れることによる接触感染で広がるため、手洗いを心掛けます。うがいは、粘膜内の細胞に侵入したウイルスを直接除去できる訳ではありませんが、感染予防と喀痰除去、気道の加湿作用があります。マスクの使用で感染を確実に防げる訳ではありませんが、気道の加湿加温作用、痰の飛散予防効果があります(咳エチケット)。
B 耳鼻科処置の重要性:鼻汁の除去や消毒、ネブライザーによる気道の清浄化・鼻腔や気管支の拡張が、有用です。特に自分で鼻がかめず、鼻水がのどの奥に落ちる(後鼻漏)傾向のある幼児では鼻汁の吸引が有用です。
C 合併症の予防:扁桃腺の弱い体質やアレルギー体質、免疫低下などのない健康な成人は、高度な合併症を起こすことはまれです。しかし、インフルエンザ型や喉頭炎型、肺炎型は合併症を起こしたり、治りが悪くなる場合があります。
 小児は、気道が狭く扁桃組織が反応しやすいために、中耳炎、喘息性気管支炎、気管支肺炎、声門下喉頭炎(仮性クループ)に注意します。また、十分な抗体を備えていないために、症状が強くなり反応する部位が広がる傾向があることから、脳炎、髄膜炎、脱水症に注意します。また、当初は一般的なかぜの初期にみえても重大な病気の初期症状である場合もあります。乳幼児では「なんとなくいつもと違って体調が悪い=not doing well」という印象が大事です。あまりにもウトウトして反応が鈍い、突発的な嘔吐を繰り返す、首や全身がこわばってひきつれている、水分を飲む元気がない、尿が半日以上全く出ない、などの症状に注意します。
 高齢者は、痰の排出能力が落ちることから、上気道の感染が下気道に波及し、気管支炎から肺炎に進行する可能性が高くなります。若年者と異なり肺炎になっても高熱が出ることなく、すぐに呼吸困難や心不全を起こすことがあります。

一般的には、次のような症状がある場合には重症化の傾向ですので注意が必要です!
・発症1〜2日目で風邪症状が強い
・3日過ぎても高熱が持続する(4日目の朝でも高熱)、5日過ぎても微熱が続く(6日目の朝でも微熱)
・水分摂取が不十分で尿が半日以上出ない(幼児では涙が出ない、唾がでない)、強い頭痛や吐き気が持続する
・呼吸が浅く速く肩で息をする、睡眠中に呼吸が停止する
・意識レベルが低下して反応がにぶい(幼児では泣く元気もない)

*初診時に病院で受けた説明の見込みより悪化した・新しい症状が発現した・長引いて良くならない場合には、再診が必要です。(高熱、痛みが持続、息苦しい、吐き気が強い場合には優先的に診察します。受付にお伝え下さい)


<注意すべき風邪の続発症と鑑別すべき病気> 
□脳症、脳炎、髄膜炎   □結膜炎(細菌性、ウイルス性、アレルギー性)
□急性中耳炎、滲出性中耳炎、耳管狭窄症、外耳炎、鼓膜炎
□副鼻腔炎、扁桃炎、扁桃周囲炎(膿瘍)、溶連菌咽頭炎、喉頭蓋炎、喉頭炎、声門下喉頭炎(仮性クループ)
 インフルエンザ(A香港、A09年型、B型)、単純ヘルペス口内炎、帯状疱疹ヘルペス、咽頭(口蓋垂)浮腫
□伝染性単核球症(EBウイルス)、クラミジア咽頭炎(オウム病、性行為感染症含む)
□頚部リンパ節炎  □耳下腺炎、顎下腺炎、蜂窩織炎  □齲歯(歯肉炎、根尖病巣)
※夏風邪の咽頭炎:アデノウイルス<咽頭・結膜・腸>、エンテロウイルス<ヘルパンギーナ、手足口病>
□気管炎、気管支炎(ウイルス、百日咳)、細気管支炎(RS、メタニューモウイルス)、喘息性気管支炎
気管支肺炎(マイコプラズマ、クラミジア)、肺炎、肺結核、肺癌
□突発性発疹
□急性胃腸炎(ウイルス性ロタ・ノロ・サボ、細菌性)
□自家中毒(アセトン血性嘔吐症)、虫垂炎(盲腸)、腸閉塞(腸重積)
□尿路感染症<腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎>
□川崎病
□肝炎、膵炎、胆嚢炎
□性行為感染症
※長引く熱や咳、激しい頭痛や吐き気、下痢、腹痛は専門他科の紹介も必要となります。当院では出来る限りどの程度の風邪か伝えていますが、症状の増悪や改善の見られない場合は、必ず再診ないしは電話での問合せをお願いします。

<抗生物質> ウイルス性感染が主体の病初期には抗生物質は必要性ありませんが、細菌感染が疑われた場合や予防(耳、鼻、扁桃腺、気管支の弱い方、特に幼児や高齢者)で、必要に応じて処方します。

セフェム系:広く有効だが耐性菌が増えており、セフェム耐性菌には倍量投与
ペニシリン系:肺炎球菌に有効。下痢を誘発
ペネム系:肺炎球菌、耐性菌に広く有効。小児用経口剤あり。軟便を誘発
ホスホマイシン:併用療法、肺炎球菌、細菌性胃腸炎、耐性ブドウ球に有効
マクロライド系:長引く咳の原因となるクラミジア、百日咳、インフルエンザ桿菌、モラキセラ菌に有効  *耐性マイコプラズマや耐性溶連菌に無効 *感染のない気管支炎、副鼻腔炎、中耳炎の粘膜正常化・免疫活性化作用も有する(少量長期療法)
合成抗菌剤:マイコプラズマ、結核を含め各種の病原菌、耐性菌に広く有効。消炎鎮痛解熱剤との併用注意薬あり。
リンコシン系、テトラサイクリン系:慢性扁桃炎、虫歯、リンパ節炎、にきびなど嫌気性菌、マイコプラズマに有効 *テトラサイクリンは8才以下では長期投与で歯への色素沈着の可能性もあり最小限の処方。1割に服薬後2時間吐き気が続く場合あり、その際は次回の服薬を休止して下さい。
アミノグリコシド系:軟膏、注射
クロラムフェニコール系:点眼液
抗ウイルス剤:ヘルペス、インフルエンザに有効

<熱さまし(解熱剤)の使い方> 38.5℃以上での使用が目安です。発熱は病原菌を殺す生理的な反応ですので、無理に熱を下げる必要はありませんが、熱 +α(頭痛、耳痛、のどの痛み、吐き気の持続による脱水傾向など)の症状があれば、本人の苦痛を考えて最低限に使用して下さい。ただし、薬剤に過剰に反応しやすい生後6ヶ月までの乳児での使用は原則的には控えてください。(原因不明の発熱では厳重な内科的経過観察が必要となります) 幼少児や成人でも熱が3〜4日以上続く場合は、本来の熱の原因をマスクして診断が難しくなる恐れもありますので、使用は極力控えてください。
 なお、熱さましには「消炎鎮痛解熱剤」として痛み止めの作用も有します。中耳炎や副鼻腔炎、扁桃炎による痛みや腫れが強い場合には、痛みを軽減や腫れを引かせる目的で使用して頂く場合もあります。