耳鳴りの8割が内耳(蝸牛)や聴神経の障害で引き起こされるとされ(末梢発生説)、難聴による音刺激の減少から脳内(視床)で過剰に感じます(中枢発生説)。肩こりなど耳周囲の筋緊張、中耳炎の内耳への波及、脳の血行障害、脳腫瘍が原因となることもあります。また精神的なストレスや自律神経の状態も大きく関わってきます。高齢者を中心に約5%の人が持続的な耳鳴に悩まされています。
耳鳴りの分類と主な疾患:
急性:発症6ヶ月以内⇒原因治療
慢性:発症6ヶ月以上⇒耳鳴の苦痛を軽減する治療
⑴自覚的
①無難聴性耳鳴症:聴力に異常の無い耳鳴症。聴力検査で測定できない高音部や低音部のわずかな神経の障害を疑います。5分以内の一時的なものはストレスや自律神経失調による内耳の血行障害を最も疑います。聞こえにひずみ感があれば蝸牛障害をより疑います。
自律神経失調症(更年期障害)、うつ病などの精神疾患、片頭痛後脳過敏症
聴覚過敏症;鼓膜張筋症候群(顔面神経異常-顔面神経痛(外耳道痛))
脳内神経伝達物質セロトニン過剰放出、低周波環境 ⇒治療に騒音抑制耳栓
②難聴性耳鳴
加齢性難聴(両側高音障害)、遺伝性(体質)、薬剤性(抗結核薬など)
急性感音難聴と後遺症:突発性難聴(動脈硬化、血行障害)、特発性難聴、細菌性(麻疹)、ウイルス性(ヘルペス、インフルエンザ、おたふくかぜ)
メニエール病(250Hz中心の低音障害)
自己免疫性性難聴、血管炎性難聴(変動性難聴、膠原病類縁)
耳硬化症(2000Hz中心の障害 女性 進行)
聴神経腫瘍(良性、半年単位で進行性に注意)、その他の脳腫瘍、脳血管障害
音響外傷;急性~打撲、コンサート難聴 慢性~騒音性難聴(4000Hz C5dip障害)
外傷;内耳振盪症、外リンパ瘻、側頭骨骨折
耳管機能不全(狭窄、開放)、航空性中耳炎
外耳炎・水疱性鼓膜炎(ウイルス、マイコプラズマ)
中耳炎(肺炎球菌、好酸球性で内耳障害)
鼓室硬化・菲薄化鼓膜(中耳炎後遺)、耳あか
⑵他覚的
顎関節症、筋肉性耳鳴(中耳の鼓膜張筋・アブミ骨筋の痙攣)、血管性耳鳴(脳動脈瘤、動静脈奇形(硬膜動静脈瘻))
検 査:
純音聴力検査:聴力に左右差や進行性が疑われれば定期的に検査します。
チンパノグラム、アブミ骨筋反射(SR):鼓膜の動き、中耳換気能、顔面神経の動きを調べます。
OAE(耳音響放射)・平衡機能・蝸電図:内耳、内耳道の障害を調べます。
耳鳴検査、不快域値検査:耳鳴検査(ピッチマッチ・ラウドネスバランス)では耳鳴の周波数、大きさを評価します耳鳴りの大きさ、周波数を調べます。不快域値検査では不快と感じる音圧を測定します。
CT、中耳・内耳道X線
MRI、MRA(核磁気血管造影):進行性難聴や他の脳神経症状の合併で、聴神経腫瘍や脳血管障害が疑われる場合に行います。 *放射線科、脳神経外科に紹介予約します。
治 療:
内耳血流改善剤:唯一の耳鳴緩和作用の保険適応あり(市販ナリピット) *ニコチン酸(ナイアシンVB3)を含み育毛・高脂血症改善作用もあり
ビタミンB12:神経再生活性化
ATP製剤:神経活性化、末梢血流改善
ビタミンE:血流改善
中枢性筋弛緩剤:中耳、あご、肩の筋緊張改善
自律神経調整剤:ハイゼット(オリザノロール、高脂血症改善、胃の弱い心身症、更年期障害、過敏性腸症候群) グランダキシン(交感神経緊張による動悸、発汗の抑制、軽い精神安定剤系)
抗不安薬: *連用での精神的依存や離脱障害に注意。 当院では連用は避けで休薬期間を設ける処方とします。
睡眠導入剤:耳鳴りによる不眠に用います。 *連用後の依存や反跳性不眠に注意
抗めまい薬:
脳代謝改善薬、脳循環改善薬:
利尿剤:内リンパ水腫軽減
ステロイド剤:急性神経炎、浮腫軽減、自己免疫異常の抗炎症 *糖尿病は原則禁忌、長期服用で副作用に注意
抗ヘルペス剤:帯状ヘルペス再活性の初期が疑われた場合に用います
抗てんかん薬、抗うつ薬:神経症、片頭痛後脳過敏症などに用います。*精神科、神経内科との連携も
漢方薬;八味地黄丸(胃の丈夫な加齢)、補中益気湯(胃の弱い加齢、病後、夏ばて)、苓桂朮甘湯(めまい、頭痛)、五苓散(内リンパ水腫、耳管狭窄)、加味帰脾湯(耳管開放、不眠、神経症)、釣藤散(高血圧、頭痛)、当帰芍薬散・加味逍遥散・桂枝茯苓丸(更年期障害、自律神経失調)、抑肝散加陳皮半夏・柴胡加竜骨牡蛎湯(神経過敏)
耳管通気、中耳加圧:中耳の換気を図るとともに、内耳への圧刺激を与えます。
マイクロ波照射:温熱効果により内耳の血行を改善します。
星状神経節ブロック:ソフトレーザーにより首の星状神経節を刺激して、約3時間、内耳の血行を良くします。
キシロカイン静脈注射:局所麻酔薬を注射の上、注射中の一時的軽減と注射後の持続効果の有無をみます。効果が持続するようであれば、週1~2回で計5~10回試みます。有効率は約50%です。
ステロイド鼓室内注射:中耳・内耳の消炎を図ります。内耳性耳鳴への有効率は約50%です。
耳鳴マスカー:内耳性耳鳴の場合、音を聞き続けると聴神経の疲労から一時的に過敏性が静まり(マスキング効果)、その効果がしばらく続く現象(耳鳴の後抑制)を利用します。欧米の報告で40~60%の有効率です。
<使用方法>就眠前に、雑音を発生するマスカーで耳鳴りが消える最も小さいレベルの音を数10分~2時間聴く。2時間の使用で1時間半の耳鳴り抑制効果が約75%に認められます。マスカーは、現在日本では販売されていませんが、当院では1週間試用として貸出します。(無料です) 効果があればFMラジオの局間雑音やスマホ用アプリを使用します。
TRT(耳鳴順応)療法、音響療法:TRT療法はサウンドジェネレーターの快適な雑音を聴くことで耳鳴に脳を順応させる訓練法。また、YouTubeで潮騒や鳥の鳴き声などの環境音やクラシック音楽を、就眠前などの静かな環境時に耳鳴が無くならないレベルの音量で聴く家庭音響療法もあります。
補聴器装用:中等度以上の難聴の周波数を補聴して、脳内(視床)の過剰な反応を抑え、中枢発生の耳鳴を抑えます。
自律神経訓練法:リラックス法、カウンセリング、バイオフィードバック法
銀杏葉(いちょうは)エキス:抗酸化・血液凝固抑制作用があり、痴呆症改善・記憶力向上効果もあります。サプリメンとして試してもよいと思います。(ただし、神経毒性のあるギン コール酸が葉に少量含まれており、極端な大量摂取は控えます。また、抗凝固剤の作用増強にも注意)
附)リック寄稿文より
耳鳴りは実に不快なものです。音は,鼓膜,中耳,内耳,聴神経を通って大脳で音として認知されます。この音の伝わる道筋とその周囲の血管,筋肉,骨の異常や,鼻の異常
(耳は耳管で鼻の奥とつながっています)によって,耳鳴りを感じることになります。
耳鳴りを診断する上で基本となるのが聴力検査です。聴力障害を伴いそれに見合う耳鳴りがあれば原因の推定が可能です。聴神経にはバランス感覚を感じる機能もあるので,めまいの合併があれば内耳,聴神経の異常を疑います。また,頭痛,視力障害,しびれなどの他の脳神経症状の合併があれば脳内の異常を疑います。検査で原因が特定できれば,それに対する治療を行うことになります。
しかし,最も多いのが無難聴性耳鳴と呼ばれる,聴力に異常がなく他の神経症状もない耳鳴りです。最近の研究では,内耳細胞の中でも一般の検査で測定できない高い周波数を感じる部分の障害や,神経の異常放電によるものも報告されています。しかし,精神的なストレスに伴う一時的なものもあり,原因となる障害部位を特定できない場合も少なくありません。
今回は,特に慢性の無難聴性耳鳴の治療につい述べてみます。
一般的にはまずビタミン剤や脳代謝や循環の改善剤などの神経を活性化する薬剤と,筋緊張の緩和剤,精神安定剤などの薬物治療が試みられます。その他に中耳の換気の改善を計る耳管通気,ソフトレ-ザ-,神経ブロックなどによる内耳の血流改善,局所麻酔薬の注射,耳鳴りと類似の音を聞くことにより耳鳴りをマスクしてしまう装置(耳鳴マスカ-),自律神経訓練,東洋医学的治療と様々なものがあります。
残念ながら無難聴性耳鳴の中にも様々な原因があることから,どの治療も試みながら効果をみていくという方法にならざるをえません。この病気は自覚的なものであることから,様々な民間療法が伝えられるところでもありますが,民間療法の中に科学的な裏付けが得られて一般化した治療法はありません。ストレスを避ける生活を心がけた上で,耳鳴りが日常生活に及ぼす支障度に応じて,かかりつけの先生と治療法についてよく相談することが必要です。