妊娠性鼻炎

妊娠性鼻炎とは

19世紀後半より、生理周期や妊娠に伴っておこる鼻症状については知られていました。特に妊娠中におこる鼻粘膜のうっ血については、はっきりとした定義がなされないまま議論されていました。

妊娠中の出産前6週間(あるいはそれ以上の期間)におこる鼻粘膜のうっ血で、出産後2週間以内に完全に消失するものを妊娠性鼻炎と定義します。ただし、感染症やアレルギー性疾患とわかっているのものは除外されます。


病因(原因)は

ホルモンの変化が鼻粘膜のうっ血の原因と考えられていますが、まだ不明な点が多く、現時点では胎盤性成長ホルモン喫煙ハウスダストやダニなどに対する感受性(過敏性)亢進が関係していると考えられています。

治療は

根本的な治療法は現時点では明らかになっていませんが、下の表のような治療法を比較検討した結果、鼻孔拡張テープや鼻内生食洗浄は安全性が高く、一時的ではあるが鼻閉を軽快させることができ、有用とのことです。

妊娠性鼻炎に対して検討した治療法の概要
  治療法             検討結果
血管収縮点鼻薬  : 一時的な症状の改善は得られるが、薬剤性鼻炎になる可能性も
              あるため、使用は数日間に制限すべきである。
経口ステロイド薬  : 母体や胎児への影響を考慮し、使用すべきではない
ステロイド点鼻薬  : 母体や胎児への明らかな悪影響はないが、妊娠性鼻炎に対する
              有効性も認められない
鼻孔拡張テープ  : 安全かつ有効である
鼻内生食洗浄   : 安全かつ有効である

抗生剤        : 副鼻腔炎合併例には積極的に投与すべきである

   (鼻アレルギー・フロンテイア 2004.9 vol.4/No.3 メデイカルレビュー社 28頁 妊娠性鼻炎の病因と管理 The Etiology and Management of Pregnancy Rhinitis. Ellegard EK: Am J Respir Med 2(6) :469-75, 2003  大阪市立総合医療センター耳鼻咽喉科 山田浩二氏 訳 を主体に改編)

追加
妊娠中、特に妊娠2−5ヶ月より鼻過敏症状の増悪がみられることがあり、妊娠性鼻炎と言われています。
妊娠は約10%の鼻アレルギーの症例で鼻症状を増悪させたり、または発症させることが報告されています。
その原因として、女性ホルモンの影響や妊娠中の自律神経失調により、副交感神経優位の状態が続くことがあげられています。女性ホルモンは鼻アレルギーの増悪因子として働いているといわれており、その作用機序として、好酸球および単核球の機能を亢進し、鼻粘膜上皮細胞および血管内皮細胞上のH1受容体の発現を亢進させ、さらに自律神経系の受容体を変化させることなどがあげられます。

妊娠性鼻炎の治療については、妊娠時期に応じて治療法を選択する必要があります。

薬剤による催奇形の危険性が最も高い時期といわれる妊娠4−7週は、点鼻用血管収縮薬、点鼻用副交感神経遮断薬、局所温熱療法にて対症的に治療します。
妊娠8−15週では、胎児の重要な器官の形成は終了しているが、性器の分化、口蓋裂の閉鎖は終了していません。したがって、口蓋裂を来たす可能性のある抗ヒスタミン薬の投与はすべきでなく、吸収性の少ない局所用抗アレルギー薬、局所ステロイド薬を中心に用います。
妊娠16週以降は奇形発生の危険はなくなりますが、薬剤の胎盤通過が胎児の機能的発育にj影響を及ぼす可能性があるため、やはり、治療は局所用薬が中心となります。
その他、妊娠中に行える治療法としてレーザーなどの下甲介粘膜焼灼術があげられます。

局所温熱療法は、43℃のスチーム(水蒸気)を10分間鼻より吸入することにより、すべてのアレルギー症状が改善し、特に鼻閉の症状の改善が期待できます。家庭で器具を購入すれば好きなときに治療が行え、また薬剤を全く使用せず、鼻症状の改善が望めるため、どの時期の妊婦にとっても安全かつ非常に有用な治療法です。
   (鼻アレルギー・フロンテイア 2004.9 vol.4/No.3 メデイカルレビュー社 52-53頁 妊娠性鼻炎(鼻閉) 東京都立駒込病院耳鼻咽喉科 笹村佳美氏論文より抜粋引用)



服用時期別の催奇形危険度の評価点
(林昌洋・虎の門病因薬剤部長による)

最終月経開始日からの日数         評価点
  0 − 27日 無影響期           0点
 28 − 50日 絶対過敏期        5点
 51 − 84日 相対過敏期        3点
 85 −112日 比較過敏期        2点
113日- 出産日 潜在過敏期        1点