「いびきをかく」「いつも口をぽかんと開けている」「たびたび熱を出す」 というようなことで、耳鼻科検診を受けたら「扁桃(腺)肥大」、または「慢性扁桃(腺)炎」と診断され、「一度専門医で精密検査を」と言うアドバイスが出ることは子供の時、特に小学校低学年ではしばしばあることです。
扁桃は鼻の奥(咽頭扁桃)、舌の付け根(舌根扁桃)などにもありますが通常は口蓋垂(俗に言うのどちんこ)の両脇のくるみのような形の部分(口蓋扁桃)を指します。人によって大きさ、形は様々ですが、表面がでこぼこしており、呼吸により体内に入ってくる空気中のウイルスや病原菌を吸着しては無害化し、体内深部への侵入を防ぐ、リンパ組織が集まってできた免疫器官です。
本来は非常に大切な役割を担う組織ですが、極端に大きすぎる時(扁桃肥大)と、そう大きくなくてもたびたび炎症を繰り返す時(習慣性扁桃炎)はトラブルのもとになるのです。時にはその両方が重なる場合もあります。
1)扁桃肥大: これは扁桃が肥大して普通より大きくなった状態で、(口蓋)扁桃肥大と咽頭扁桃肥大(アデノイド増殖症)とがあります。扁桃組織は通常は三歳頃から成長して、五、六歳頃に最大になり、後は炎症が起きなければ自然に萎縮していきます。そのため子供の扁桃は大き目で不思議がないのですが、身体の免疫力が弱い時期ですので、炎症を起こしたり、周囲の器官を圧迫して影響を及ぼすことがよくあります。ものを飲み込みにくい、呼吸をしにくい、鼻がつまる、ひどいいびき、無呼吸、結果として滲出性中耳炎、難聴など様々な合併症を引き起こします。この時期は心身の発育に最も重要な期間ですので、どのような治療を選択すべきか総合的な判断が必要です。
2)扁桃(腺)炎: のどの痛みで頻度的に最も多いのは扁桃の炎症です。子供に限らず大人でも、扁桃の炎症を時々繰り返す人が少なからずいます。かなり高い熱が出て通常は激しい痛みが伴います。こんな状態を習慣性扁桃炎と呼んでいます。食生活の変化や抗生物質の普及で昔ほどひどくなる人は少なくなりましたが、今でも無視できない疾患です。通常の風邪薬ではなかなか治りません。
扁桃炎は両側のことが殆どですが、時にはどちらかに偏って、すごく腫れてひどい痛みが生じることがあります。痛みに加えて、口が開きにくくなり、食事が全然のどを通らなくなることがあります。これは「扁桃周囲炎」と言って、扁桃の周囲の軟らかい組織に炎症が及んで化膿してしまった状態です。食べるのがしんどいので、点滴を十分して脱水状態を緩和し、適切な抗生物質を高濃度に投与する必要があります。もっとひどくなれば「扁桃周囲膿瘍」と言って、膿が貯留した状態ですが、腫れがひどく、口も開きにくい場合は切開して貯まった膿を排泄してやることもあります。
のどが痛い時に、風邪だろうと放置したり、市販の風邪薬で様子をみていると、随分とひどい目に会うことがあります。また熱も痛みもそれほどひどくはなく、何かのどに異物感があり、たまたま鏡でのど奥を見ると。白いかたまりがついており、「腫瘍では!?」と心配になり、病院を訪れる方も多くみられます。ほとんどは「膿栓」と言って炎症性の産物ですが、時には腫瘍やリンパ腫などのこともあるので、是非一度耳鼻科検診をお勧めいたします。