滲出性中耳炎

鼓膜の奥を中耳と言いますが、そこに水(液)がたまる病気です。 正確にはその水は滲出液と言い、ウミのように粘っこいものや、さらさらっとしたものがあります。耳鼻科では「耳に水がたまっている」と説明することがあり、そうするとお母さんは「この子はある晩、お風呂に頭からざぶんと入ったからそれで」とか、「プールの水が入ったのかしら」と勘違いされることが多いのですが、水のたまる場所が違います。プールの水、お風呂の水は鼓膜に穴が開いていない限り、外耳(鼓膜より外側)にたまることはあっても中耳にはたまりません。

この病気は成人でも起こりますが、三歳頃から発症し、幼稚園から小学一年生頃をピークに大体十歳までが一番多いと考えられています。最近では一歳半検診、三歳児検診などが行われ、もっと低年齢でも発症していることがわかってきました。自覚症状に乏しく、発見が遅れがちなことと、低年齢で治療が難しいことで、大変厄介な病気の一つであり、数の上からも子供の耳の病気の代表的疾患の一つです。

この病気の原因の一つは急性中耳炎の治療が不十分だったり、不適切であった場合です。とくに小児は急性中耳炎を頻繁に起こし易く、炎症を繰り返しているうちに組織液の分泌が過剰になり、滲出性中耳炎に移行することがよくあります。これは小児の中耳、耳管、鼻などの解剖学的理由などによります。例えば小児の耳管は傾斜角度が小さく、太く、短いこと。さらにアデノイドという、鼻の奥に大きなリンパ組織があり、耳管を塞ぎ易いため、鼻、のどの炎症が鼻から入り易く、滲出液が鼻に抜けにくいのです。

厄介なのは鼻が悪くて鼻水が多い以外に、これといった目立った症状がなく徐々に起こる場合です。風邪が原因で、鼻炎や副鼻腔炎を起こし、それが慢性化すると、耳管の働きを悪くして、中耳の水分が鼻に抜けにくく、滞る結果発症するのです。このような時は発見が遅れがちで検診が役立ちます。一歳半検診、三歳児検診は耳鼻科の場合、この病気を見つけるためにあると言っても過言ではありません。

症状は急性中耳炎のように、耳が痛かったり、発熱したりすることは殆どありません。くびを振ると軽い痛みがあったり、山の上に登った時のツーンとする感じを自覚することがありますが、幼児はそのような症状は教えてくれません。両耳がこの病気になると難聴が起こりますが、子供ですとそれもあいまいです。ヒトの言うことを何度も聞き返したり、テレビを前の方で見たりしますが、余程注意していないと見逃すことになります。

滲出性中耳炎のほとんどは小学校高学年までに軽快することが多いのですが、かと言って、それまで待つのは禁物で、むしろその頃までに完全に治しておかないと。半永久的な難聴が残ったり、髄膜炎や、内耳炎などの合併症を起こし易い真珠腫性中耳炎に移行することもありますので注意が必要です。

治療と予防は急性中耳炎を完全に治しておくことが第一。次は鼻の病気を治療することです。約六割は副鼻腔炎にかかっているとも言われています。非常に根気がいることですが、鼻の治療で滲出性中耳炎の大半は良くなります

薬や、鼻の治療でいい具合に良くならない場合「鼓膜切開」をして中耳にたまった液を抜き出す(吸い出す)こととなります。鼓膜は十分に麻酔できますので本当は痛くないのですが、恐怖感と吸い出す時の吸引の音で、特に液が糊のようにネバネバで簡単に吸い出せない時は結構、パニック状態となります。

子供は親の顔色に非常に敏感です。鼓膜を切ることを可哀想と思う親心は十分わかるのですが、心で泣いて、子供には毅然とした態度で臨んで欲しいというのが耳鼻科医の願いです。

この病気は鼻との関連で再発することが多く、再三切開が必要なこともあります。「たびたび鼓膜を切って聴力に影響しないだろうか」これがお母さん方の悩みです。切開をしないで治ればそれに越したことはありませんが、鼓膜切開自体は聴力に悪影響はなく、むしろそれをしないことによって、難聴を残したり、将来手術が必要な病気に進行したりします

もう一つ、お母さん方の悩みは「チュービング」と言って鼓膜を切開した後に、小さなチューブ(パイプ)を留置する治療法を医師に勧められた場合です。これは何度も再発したり、鼓膜に変形を来たして弾力性がなくなったり、切開の度に子供が大暴れをして治療に難渋したりする時に行う治療法です。

この治療法は中耳の換気を鼓膜を通じて持続的に行うことができ、かつ分泌過剰になった中耳粘膜の正常化を促進するとても良い治療法です。原則的には、一度やっておけばあとは再三切開をする必要はなくなります。

ただ問題はチューブをつけている間の水泳をどうするか、いつまでつけておけばよいのか、また時には炎症を起こして維持が困難であったり、数は少ないながらも、鼓膜に穿孔が残ることがある、などです。従って非常に良い治療法ではありますが、難治性の重症型に限って行うこととなります。

子供の場合、痛い中耳炎なら、本人も親も気付きやすいのですが、滲出性中耳炎は気付かれにくいので、もし、風邪を引いたら、ハナ風邪、のど風邪であっても、小児科だけでなく、耳鼻咽喉科医の診察を受けること、さらに何度か繰り返している場合は定期的に聴力検査を行うと早期発見、早期治療が可能です。