周囲に特定の音がないのに、どちらかの耳元や耳の奥で「キーン」とか、「ジーン」、「シーン」とか、セミの鳴き声のような音を感じることがあります。これが耳鳴りで、「三人に一人は生涯のいずれかの時点で耳鳴りを経験し、八人に一人が慢性的な耳鳴りに悩まされている」 といいますが、ほとんどのヒトが一度や二度はこういう経験があると思います。
ある年、ある高校で学生にアンケート調査をして、耳鼻科検診に役立てようとして、「耳鳴りがしますか、またはしたことがありますか」と質問したところ、ほとんど全員が「感じたことがある」との回答をしたため、以後この項目ははずすことにしました。それくらい、耳鳴りは非常に多いものです。
しかしその音が片耳に偏ったり、異常に大きかったり、頻繁にある場合や、いつまでも続く場合は病気を考える必要があります。
耳鳴りには大別して二通りあります。
1)他覚的耳鳴り : 静かな部屋、または聴診器に使うような管で、糸電話の要領で耳と耳をつなぐと他人に聞こえるもの
2)自覚的耳鳴り : 自分にしか聞こえず、耳の奥や、時には頭の中で感じるもの
1)は脳内や耳内の血管腫、動静脈奇形などの血管異常や、血液の流れから脈動が聞こえる血管性耳鳴りや、中耳と鼻をつないでいる耳管の開閉運動に関係する筋肉、口蓋筋、耳小骨筋の痙攣などが原因で発生する筋肉性耳鳴りであることが多いのですが、頻度的に多くて、通常、耳鳴りと言えば2)の方ですのでそのことについて書いてみます。
2)はブーンブーン、ジージーといった低い音の場合と、キーンキーンといった高い音、また持続するものと、断続的なものなどに区別されます。
原因としては、頭部の外傷、薬剤中毒によるもの、また先天性、家族性に起こるものや、ホルモン異常、高血圧、低血圧、動脈硬化症、糖尿病などの全身的な原因のために起こるものもありますが、当然のことながら、耳の病気のために起こるものが一番多く、代表的なものとしてはメニエル病(めまい、難聴、耳鳴り)、突発難聴、内耳炎など、内耳の病気や、鼓室硬化症、中耳炎(とくに骨を破壊していく真珠腫タイプ)などの中耳の病気があります。また時には聴神経腫瘍と呼ばれる内耳神経(聴神経、前庭神経)のできものが原因のことがあります。
耳の病気の時は普通は難聴(聞こえが悪い)があるのが普通ですが、少しずつ症状が進行した時などは難聴に気付かず耳鳴りだけ気になっていることもあります。また悩まされる耳鳴りは、やはり中高年層の方に多く、女性ですと「更年期」、高齢者の方は「血圧のため、年齢のため」などの説明ですまされていることもあります。
耳鳴りの診断には耳鼻科的に診察をすることが大切です。顕微鏡で外耳、鼓膜に異常がないかをしらべ、聴力検査を行います。耳のレントゲンが必要なこともあります。場合によってはCT断層、MRI(磁気共鳴装置)といった精密検査が要ることもありますし、内科的に全身検査を必要とすることもあります。
耳鳴りの治療は一般的に言って難しいものです。とくに長期間症状が続いている場合や、糖尿病、高血圧症など全身的要因がある場合はなおさらです。しかし、原因がはっきりわかれば治療法を見つけることもできます。時には腫瘍などが潜んでいることもありますので、一度はきちんと検査を受けておくことが大切です。